その②
「師匠から教わりました。師匠は医術にも長けていたので」
「そうか。アリサから話は聞いているが医師でも躊躇するような怪我の処置も怯むことなくするそうだね」
「この村で知識があるのは私だけですから。やれることはやります」
小さな村で薬局を営む――それは村人の命を預かっているも同然。専門外だからと怪我人の処置を拒むのは間違っています。
「医師と提携しているからってこともあります。でも、私は目の前で苦しんでいる人を見捨てるような真似は出来ません」
「それは師匠の教えなのかい?」
「いえ。私の信念です」
「信念?」
「私は凄く貧しい村で生まれ、両親はただの風邪で亡くなりました。薬師になるきっかけは師匠です。でも薬師になったからには私と同じ思いをする人を1」人でも減らしたいんです」
「アリサから聞いた通りだな」
私の言葉に納得できたのかリットさんは静かに目を瞑り、口元を緩ませてアリサさんから聞いたと言う私の昔話を始めました。
「君がこの村に来てすぐの頃。君はアリサの友人を看取ったそうだね。瀕死の彼女を君は最後まで救おうとした」
「――リズさんのことですね。はい。アリサさんが止めなければ最後の最後まで処置をしていました」
「アリサはそんな君の姿を見たから専属契約をしようと決めたらしい。僕に今回の話を持ってきたのもサラと言う薬師が君の弟子だからだそうだ」
君は優秀な薬師のようだと褒めてくれるリットさんは持ってきた旅行鞄の中身が薬草だと教えてくれました。
「乾燥させた物しかないが基本的な薬草は一通り持ってきた。うちで扱っている薬草の質を見てもらいたいんだ」
「アリサさんの知り合いなら質を確かめるまでもありませんよ」
「それでも見てくれ。現物を確認したうえで取引を始めて欲しい」
どうやらこの人は信用できる商人みたいです。こんな小さな薬局相手でも一方的な取引をせず、現物を見せて相手の意思を尊重する気遣いが出来る商人はいません。さすがアリサさんの知り合いです。




