その③
「なぁ、ソフィー?」
「なに?」
「おまえってほんとルークさんに似てるよな」
「急にどうしたのよ」
「いや、いまごろルークさんはなんて思ってるんだろうなって」
「そうだねぇ」
エドが師匠の話をするなんて珍しいな。たしかに私は師匠の弟子だけどサラちゃんが来るまでエルダー以外の村に店を出すとは思ってなかったし、そういう意味では確かに似てきたのかもしれません。
「きっと『ソフィーらしいね』って見守ってくれてるよ」
「おまえらしい……か。そうだな。薬師のことになったらなに言っても聞く耳持たないからな」
「……それ褒めてないよね」
「自覚はあるんだな。ま、それも含めておまえなんだけどな」
「その言い方、なんか腑に落ちないんですけど?」
悪意が無いのはわかっているけど、もう少し言い方はあるよね。けどまぁ、事実は事実だからここは大目に見てあげようかな。
「それで、店の方も目途が付いてきたんだろ。あとはどうするんだ」
「協会へ開業届を出すくらいかな。届け出をしないと“闇薬師”になっちゃうからね」
「そっか。もうすぐあいつも独り立ちか」
「うん。秋には送り出すことになるかな」
時期的に二人目が生まれるタイミングになるかもしれません。出産と弟子の独り立ち。きっと慌ただしくなるだろうけどそれはそれで待ち遠しく、楽しみで仕方ありません。
「それにしても、この村に来た頃は私が誰かの師匠になるなんて思ってなかったなぁ」
「俺もこの村に薬師が来てくれるとは思ってなかった」
「なら師匠に感謝だね」
「ああ。ルークさんには感謝してる――サラもおまえみたいな薬師になれば良いな」
「大丈夫だよ。だって私の弟子だよ」
他の薬師がなんと言うかわかりません。けれどサラちゃんの腕は臨床現場で十分通用します。私はそう考え、断言します。だって彼女の師匠は指折りの薬師に育てられたんです。優秀な薬師に育つのは当然です。
サラちゃんの独り立ちは順調に行けば考えていたよりだいぶ早まりそうです。嬉しい半面で寂しく思う気持ちもあるけどここまで来たらあとはゴールに向かうだけ。
(あと2ヶ月くらいか。きっとすぐ来ちゃうんだろうな)
師匠として、先輩としてやるべきこと、してあげられることは全部して最後はそっと背中を押してあげよう。改めてそう心に決める夏の午後でした。




