その④
「わたし、ソフィーさんのような『村の薬師』になります!」
「実はね、サラちゃんに任せようと思ってるんだ」
「任せる? それって――」
「コヤックに出す店はサラちゃんに任せるね」
「え? ええっ⁉」
「私が師匠からこの店を任されたようにね、私もサラちゃんに任せようと思ってるの」
驚く後輩を真っすぐ見つめ、思いを伝える私。本当はもう少し黙っていようと思っていました。けど彼女の気迫に負けてと言うか、ここまで来たら言ってしまえと勢いに任せてこの計画の全貌を明かします。
「サラちゃんの故郷がコヤックだと知ってから少しずつ進めていたの。リリアさんたちも巻き込んでね」
「わたしのためにですか?」
「うん。サラちゃんが村で薬師をしたいって気持ちはよくわかるし、私自身も師匠からこの村に放り出されたからね」
放り出されたと言うのは語弊があるかもしれません。けれど師匠がいたからいまの私があり、だからこの子にも同じことをしてあげたいんです。
「――ソフィーさん」
「ご、ごめんね。勝手に話進めて。迷惑だった、かな」
「そんなことないです! ソフィーさんの気持ちはすごく嬉しいです。でも……」
「でも?」
「本当にわたしに務まるのかなって」
「村に来てすぐの頃だっけ。最初は誰でも不安だし怖いって話をしたことがあったよね」
「ソフィーさんがわたしに診察を任せるって言った時ですよね」
「うん。独り立ちも同じことだよ。私も最初は怖かった。これも話したよね」
なにを始めるにしても初めはみんな怖いものです。私だってサラちゃんを独り立ちさせるのは不安があります。それは師匠も同じだっただろうし、きっとリリアさんも同じだと思います。
「なにかあっても責任は私が全部取るから頑張ってみない?」
「ソフィーさん……ダメですよ」
「?」
「たしかにわたしの師匠はソフィーさんです。でもだからといって弟子の失敗を被るのは間違ってます」
「あ、うん……そうかもね」
まさかサラちゃんから注意されるとは思いませんでした。けれどそれはつまり私の提案を受け入れたと言うこと。彼女なりの覚悟を見せてくれたのです。
「ソフィーさん。ありがとうございます」
「コヤックでも頑張ってね」
「はい……って、まだお店は決まってないんですよね。気が早いですよ」
そんなに追い出したいんですかと頬を膨らませるサラちゃんですがすぐに表情は緩み、その表情に釣られるように笑顔になる私。なんだか肩の荷が下りたような気がする私は控えめながら喜びを隠さない後輩と笑い合いました。




