その③
「私がコヤックで店を開くって言ったら手伝ってくれる?」
「……コヤックですか?」
「うん。もう少し時間は掛かるけど店を出すつもりなの。一緒に手伝ってくれる?」
「当然です! わたしは村で薬局を開きたいから薬師になったんです! いくらでも手伝います!」
「ありがと。さすが私の弟子だね」
「本当に……本当にコヤックでお店を開いてくれるんですか」
「実はね、コヤック村の村長さんと少しだけあったことがあるの」
「……え?」
「もうずいぶん前のことだよ。セント・ジョーズ・ワートから王都へ向かう馬車の中で一緒になったの」
あれは最初の免状更新で王都に向かっていた時。偶然乗り合わせたお爺さんがコヤック村の村長、シビックさんでした。
セント・ジョーズ・ワートにある協会支部へ陳情に行った帰りだと言うシビックさんは村に薬師が来ることを切に願ってました。あのとき私はいつになるかわからないけど必ず薬局を開くと約束しました。
「この前、リリアさんからサラちゃんの故郷のことを聞くまで忘れた。ごめんね。でも、約束を思い出したからには果たさなきゃって思うの」
「――ソフィーさんだったんですね」
「サラちゃん?」
「おじいちゃんは病気で亡くなりました。薬師がいたら治っていたかもしれません。それでもおじいちゃんは死の直前まで言ってました。いつかこの村に薬局を作ると約束してくれた薬師がいるって」
俯き、涙をこぼしながら話してくれるサラちゃんは薬師が来ることを村人みんなが待ち侘びていたと教えてくれました。なんど協会へ陳情に行っても形式対応しかされない中でただ一人、村に薬局を作ると言ってくれた薬師がいたとシビックさんだけでなく、村中が喜んでいたそうです。
「――おじいちゃんがその薬師さんと会って何年も経ったいまも村はその薬師を待っています」
「…………」
「でもその薬師はまだ村に来れそうにないからわたしがその代わりになろうって、そう思って薬師になりました」
「……うん」
「ソフィーさんだったんですね。ソフィーさんがおじいちゃんと約束してくれた薬師さんだったんですね」
「…………」
私がコヤックにいればシビックさんを助けられたかもしれない。その場の雰囲気で約束してしまったことをコヤックのみんなが信じて私をずっと待っていた。その現実にとても胸が苦しくなります。
「……ごめんね。約束破っちゃったね」
「そんな。謝らないで下さい。ソフィーさんはこの村の薬師なんです。仕方ありませんよ」
「でも――」
「ソフィーさん。わたしはなにをすれば良いですか」
「え?」
「コヤックで店を開くなら色々と準備が必要ですよね。なにをすれば良いんですか」
約束を忘れていた私を責めることなく手伝えることは無いかと尋ねるサラちゃんの目は輝いてました。希望に満ちていると言えば大げさかもしれません。それでも彼女の瞳はやる気に満ちた良い目をしていました。




