その③
◇ ◇ ◇
アリサさんとサラちゃんが帰り、ルークを寝かし付け終えてようやく迎える夫婦の時間。
「よかったな。とりあえず薬草の調達先は決まったんだろ?」
手紙の件をエドは喜んでくれるけど私はまだ素直に喜べず、難しい顔で「まだ本決まりじゃない」と言いました。
「私が良くても選ぶのはサラちゃんだし、それにモーリスって人が引き受けてくれるとも限らないよ」
「そんなことあるのか?」
「商売だからね。私はこの仕事は商売じゃないって思ってるけど、少なくともモーリスさんは商人。利益が出ない取引はしないよ」
薬師は困っている人を救うことが使命。私はそう思っています。だから診察費も薬代も採算が取れるギリギリまで抑えています。そのせいでアリサさんのお給金は駆け出しの採集者程度。専属契約を結んでくれているにも関わらずそのくらいしか出せません。
「サラちゃんが私と同じやり方をするとは限らないよ。でも、小さな薬局は使う薬草の種類や量が限られる。商人にとってはあまり良いお客さんじゃないよね」
「そっか。それもそうだな」
「アリサさんの知り合いなら無下に断ったりはしないだろうけど、卸値の調整はするかもね」
「割増料金を取るってことか?」
「うん。仕方ないことだけど、そうなれば必然的に診察費や薬価も上げなきゃいけない。難しいよね」
村に来て10年ちょっと。私自身、よく店を続けられたと思っていますし、その裏にはハンスさんやリリアさんの助けがあったことは間違いありません。逆を言えば医師やほかの薬師と協力関係に無ければ田舎で開業するのは厳しいと言うことです。
「例えばだけどさ?」
「?」
「ウチで育ててる薬草を送ることは出来ないのか」
「全部を賄うのは厳しいかな。それに輸送費を考えたら街で仕入れた方が安く済むはずだし」
「そうか。そういうとこまで考えないといけないんだな」
「そうそう。店の経営って大変なんだよ?」
茶請けのクッキーをつまみながら笑う私も村に来てすぐの頃は楽観的だったと思います。あの頃はまだ師匠がいたという安心感があったし、なにより『経営者』として本当に未熟だったと思います。




