その②
私たちにはこのくらいの距離感が良いんだと思います。いくら夫婦でも近すぎればきっと喧嘩ばかりするでしょうし」
「たしかに。あたしから見ても2人は良い関係を保てていると思う。正直羨ましい限りだ」
「頼まれてもエドの隣は譲りませんからね」
「それは独り者への嫌味か?」
「え? あ、いえ、そう言うつもりじゃ――」
「冗談だ。あたしは一人が気楽で良いから一人でいるんだ。気にしなくて良い」
別に僻んでなどいないと笑うアリサさんは件の薬草商人のことを話してくれました。
「名前はモーリス。歳はそうだな――リリア殿くらいか。昔、この店を出たことがあっただろ。その時に知り合った」
「同業者の縁ってやつですか」
「そうだな。実はここを出てしばらくはセント・ジョーズ・ワートを拠点にしてたんだ。その時に知り合った」
「そうですか……って! セント・ジョーズ・ワートにいたんですか⁉」
「あ、ああ。と言っても半年ほどだが」
「なんで教えてくれなかったんですか⁉」
「リリア殿から止められたんだ」
「リリアさんから?」
「あたしがセント・ジョーズ・ワートにいると知れば会いに来ていただろう」
「当然です! だって――」
「だからじゃないか?」
「え?」
言葉の意味がすぐにはわかりませんでした。馬車で3日掛かるとしても大好きな人が会える距離にいるんです。それをわかっていて会いに行かない理由はありません。
「ソフィー殿は昔から子供っぽいところがあるからな。あたしがいなくなることを機に少しは大人になって貰いたかったんだろう」
「大人って……なんかひどくないですか」
「一人前の薬師になって欲しいという親心なのじゃないか」
「親心――そうですね」
ルークが生まれて母親になり、サラちゃんが来て師匠となり、立場が変わって師匠やリリアさんの気持ちがわかるようになりました。そうだよね。出会いと別れがあるからこそ人は成長するんだよね。
「私もサラちゃんを突き放す時が来たんですかね」
「おいおい。飛躍し過ぎだ」
「冗談ですよ。アリサさん?」
「ん?」
「これからもずっとうちの採集者さんでいて下さいね」




