その③
◇ ◇ ◇
アリサさんからセント・ジョーズ・ワ―トに知り合いの薬草商人がいると聞いたのは夕方、1日の後片付けをしている時でした。サラちゃんが先に帰り、二人になったタイミングで良い相手がいると教えてくれました。
「あたしたち(採集者)から仕入れるより多少割高にはなる。だが、小さな村の薬局で専属契約を結んでくれる採集者を探すよりマシだと思う」
「そうですね。小さな薬局だと使う薬草は限られてますし、専属契約では割に合いませんからね」
「ん? それは給金を増やしてくれると言うことか?」
「あ、えっとそれは……」
「冗談だ。ソフィー殿にはほんとに良くしてもらってる。いまの待遇に不満はない。が、他の採集者がそう思うとは限らない」
「そうですね。ウチはハンスさんのところの薬も作ってるからそれなりに薬草も使うけど、サラちゃんがそうなるとは限りませんからね」
採集者さんだって生活があります。専属契約するならそれなりのお給金を出さなければいけないし、その為には相応の収入が必要です。ウチは診療所と提携しているお陰で薬価の高い薬が出るので比較的収入は安定しています。
「サラちゃんが医師と提携するとは限らないし、そう考えると割高でも商人から仕入れるのが賢明かもしれませんね」
「ああ。それに定期的に仕入れるようになれば幾らかは引いてくれるはずだ」
「それはありがたいですね」
「ソフィー殿のことだ。それなりに面倒は見るのだろ?」
「アハハ。気付いてたんですね」
アリサさんにはお金の話はしてないのにさすがウチの採集者さん。隠していてもお見通しだったみたい。
「師匠が私名義で残してくれていた預金をちょっと崩そうと思ってます」
「ルーク殿が? いや、それは残しておくべきじゃないか」
「エドも私名義なら使い道に口は出さないって言ってくれたので」
「あいつ……まぁ、エドが良いと言ってるなら口は出すまい。まぁ、それはそれとして――」
「はい?」
「検討に値するなら手紙を出しても良いが、どうする?」
「そうだった」
そうでした。サラちゃんの店で使う薬草の調達先の話でした。
「扱う薬草の質はあたしが保証する。もちろん無理にとは言わないが同業者として信頼できる奴だ」
「アリサさんがそう言うなら断る理由はないですね」
「そうか。ならば明日にでも手紙を出そう」
きっと良い返事をくれるはずだと微笑むアリサさんに私も笑顔になります。どうにか薬草の仕入れ先は見つかりそう。あとは物件探しだけど、これは私が頑張らないと。
(まずは協会が持ってる空き物件から探すべきかな)
明日、セント・ジョーズ・ワートにある薬師協会の支部へ物件探しの依頼を出そう。サラちゃんの故郷は小さな村だから見つかる可能性は低いけど協会の力を借りない手はありません。
(私の我儘にみんな付き合ってくれている。私も頑張らないと)
本格的に動き出した極秘計画。サラちゃんにこのことを伝えるにはまだ早いけど、彼女の夢を叶えるためにもやれることはすべてやり切ろう。そう誓う私でした。




