その②
「サラちゃんの村がある街道を行商路にしている人を探してみるよ」
「とか言って、どうせアリサさんに頼るんだろ?」
「アリサさんなら行商人の知り合いもいるでしょ?」
「否定すらしないのかよ」
困ったやつだと溜息を付くエドだけどそれが賢明だと賛成してくれます。それに薬草の調達先に困れば自分で育てれば良いだけの話だし、ウチの在庫を融通することだって出来ます。
「ウチみたいに医師と提携しない限り最低限の薬草が揃えばなんとかなるよ」
「そういうものなのか」
「街の薬師ならともかく、小さな村で麻酔薬や解毒薬を頻繁に作る薬師はいないよ」
「その薬師が目の前にいるんだが?」
「ハンスさんのところと提携してるからね」
彼の診療所とパートナー契約を結んでいるのでウチでは使う機会が少ない薬も頻繁に作っています。そのため小規模な薬局の割に扱う薬草の種類は多く、在庫も一定数は常に抱えています。
「安定した経営のためには医師やほかの薬師と提携するのが一番だけど、まずは“村の薬師”になることが優先かな」
「経営は二の次ってことか」
「登記上はウチの支店ってことになるからね。赤字経営になっても損するのは私だから」
「いや、絶対俺たちにも飛び火するだろ」
「その時は、ね? それに、この店だって最初の頃は酷かったんだよ」
エドには話したことないけど、村に来たばかりの頃は毎日のやり繰りが本当に大変でした。師匠にも黙っていたけど、たぶん師匠は薄々気付いていたと思います。
「きっと師匠は『私なら大丈夫』って知らないふりしてたんだと思う。もちろん、あの子に同じ思いはさせたくないよ。けど店の経営ってそういうものじゃない?」
「まぁ、それはそうかもしれないけどさ」
「大丈夫。本当に無理そうだったら無理やりにでも連れ戻すから」
「いやそう言うことじゃなくて――おまえに任せるよ」
「ありがと。薬草の件はアリサさんに聞いてみるよ」
アリサさんなら知り合いの採集者さんもいるだろうし、薬草を扱う行商も知ってるはず。万が一、当てが外れても別のプランを使えば良いだけ。ちゃんと頭の中に設計図は入っています。きっとエドもそれをわかっているから強く言わないんだと思います。
「ソフィー」
「なに?」
「送り出すまでにちゃんとサラのこと育てろよ」
「わかってるよ」
念を押すようなエドを前に半人前のまま独り立ちはさせないと宣言する私。何気なく窓の外を見ると往診かばんを持ったサラちゃんの姿が見えました。
サラちゃんの独り立ち計画は動き出したばかり。やることはまだまだたくさんあるけど、サラちゃんの夢を叶える為にも私に出来ることは全てしてあげよう。そう誓う午後のひと時でした。




