その④
想定外の問いに言葉が出てこない私。一歩間違えれば破産しかねない我儘にこの人は付き合おうとしてくれています。
「いつかはサラも独り立ちするんだ。どうせその時に同じことするんだろ。なら少し早まるくらい良いだろ」
「ほんとに……ほんとに良いの?」
「おまえには昔から散々振り回されてきたからな。いまさら却下する必要もないだろ」
「エド……」
「けど、ウチを潰すようなことはするなよ」
パンとスープだけは食べさせろと付け加える旦那様は「困った師匠だな」と笑います。そして改めて当てはあるのかと私を問い質します。
「さっきは無いとか言ってたけどほんとはあるんだろ」
「もう。エドには隠せないね」
「やっぱりな。ったく、本気でパンとスープだけの生活になると思ったぞ」
「ごめん。でもアレを使ったら、なにかあってもどうにもならなくなるから」
「なんだよアレって」
「私名義の預金証書。換金すれば小さな店なら開けるくらいあるの」
「は? 預金証書なんて知らねぇぞ」
いつの間に作ったんだと言わんばかりのエドが知らないのも当然です。だってそれは師匠が私のためにこっそり貯金してくれていた物なのです。師匠が亡くなる前日、私にだけ教えてくれた秘密。誰にも話していないのでエドが知らなくても当然です。
「師匠が私のために残しておいてくれたの」
「それに手を付けるのか」
「ほんとは使わずにお墓へ持って行くつもりだったんだけどね」
「そうか。まぁ、そういうことなら俺が使い道を指図する筋合いはないな。けどさ?」
「なに?」
「ルークのことはどうするんだ。薬師学校に行かせるなら学費もいるだろ」
「これから貯めれば良いでしょ?」
あの子が学校に行くとしてもまだ5年以上あります。それまでに貯めれば良いし、最終手段で私があの子を指南すれば良いだけの話。別に楽観的な発想はしてません。
「はぁー。結局、パンとスープだけの生活かぁ」
「え?」
「せめてジャムかチーズは欲しいよな」
「そんな貧相なご飯は出さないよ⁉」
「わかってるよ。おまえのことだから上手くやってくれるんだろ?」
「それって私が料理上手ってこと?」
「自分で言って恥ずかしくないか」
「エドが言わせてるんでしょ。ありがとね」
「独り立ちさせるまでにしっかり教えろよ」
「わかってるよ」
独り立ちすれば傍で助けてくれる人はいません。それは私自身よくわかっています。だからこそサラちゃんには多くのことを吸収してもらいたい。そう願うけど――
(とりあえず、リリアさんに手紙書かないとね)
旦那様からの許可は出ました。あとはリリアさんを説得するだけ。エドと違いリリアさんを説得するのは苦労するだろうけど、サラちゃんは生まれ育って村で薬局を開くために薬師になりました。その夢を叶える為にも出来ることは全部しよう。そう誓う私は師匠がどうしてこの店を任せてくれたのか少しだけわかった気がしました。




