その①
前略
調子はどう? エドが良いって言ったならあたしは止めないわ。でも無理はしないこと。あんたがいま一番やるべきことはお腹の子を無事に生むことなんだからね。
そうそう。これからは定期的に村へ行くことにしたわ。あんたの様子も気になるし、サラの成長も見たいからね。もちろん予告なしで行くから
リリア・ゲーベル
それは5月も半分ほど過ぎたとある午後のことでした。先日届いた手紙の通り、予告なしでやって来たリリアさんがルークの子守をしながらお腹の子の名を聞いてきました。
「候補は決めたんでしょ。エドから聞いたわよ」
「教えませんよ」
「なんでよ」
「生まれてからのお楽しみです」
エドとはあとで話し合いが必要みたいだね。あれだけ口止めしたのに喋っちゃうなんて。
「名前のこと、エドはなにか言ってましたか?」
「なにも。ただ候補は決まったってだけしか聞いてないわ」
「そうですか」
「なに? あたしに知られちゃマズいのかしら?」
気になるわねと私を見つめるリリアさん。実際のところ隠すようなことでもないので話しても良いけど、出来ればまだ秘密にしておきたい私はサラちゃんが生まれ育った村のことを尋ねました。
「たしかセント・ジョーズ・ワートの南にある村の出身でしたよね」
「よく覚えてたわね。コヤックっていう小さな村よ」
「コヤック……」
なんだか聞き覚えのある名前でした。いつだったかコヤックの村長と名乗る人と会った気がします。
「どうしたの?」
「い、いえ。なんでも」
「サラのお爺さんはねその村の村長だったの」
「っ⁉」
「お爺さんは村に薬師を派遣してもらえるように協会へ何度も陳情に行ってたそうよ」
「――そうだ」
「ソフィア?」
思い出した。初めて免状の更新で王都へ行った時に乗合馬車で一緒になったんだ。たしか名前は……




