その②
◇ ◇ ◇
「ねぇママ。ぼくのいもうとはいつ生まれてくるの?」
「ルークは妹が良いの?」
「うん。はやくあいたいな」
村の北側に広がる草原を散歩中。ルークは待ち遠しい気持ちを私に伝え、いつ生まれるのかとしきりに尋ねてきます。よほどきょうだいが出来るのが嬉しいみたいだけど妹になるのか、弟になるのかは生まれて来るまでわかりません。こればかりは神様にお願いするしかありません。
「ルークがママとパパの言うことをちゃんと聞いたら神様が妹を連れて来てくれるかもね」
「ほんと⁉」
「ルークが良い子にしていればきっとね」
「わかった! 良い子にする」
元気に返事をする息子に微笑む私は女の子が生まれてくるのを願います。親としては男女どちらがいいとかはありません。生まれて来てくれただけで嬉しいけど、ここはお兄ちゃんになる子のこの願いを叶えなきゃね。
(ま、いざとなればあと1人くらい……なんてね)
さすがに3人目は旦那様と要相談になるかな。これ以上大所帯になればそれこそセント・ジョーズ・ワートみたいな大きな街に移らなきゃ家計が回らなくなります。
「ママどうしたの?」
「え?」
「ママ、へんなかおしてる」
変な顔? 苦笑いでもしてたのかな。不思議そうな顔をする息子になんでもないと答え、彼を抱き上げますがこんなに重かったっけ?
(そっか。大きくなったんだね)
考えてみればこの子を最後に抱っこしたのは随分前のこと。久しぶりに抱き上げた息子の成長に感嘆し、同時に子育ての大半をエドに任せていた自分を反省します。
「ねぇママ」
「どうしたの?」
「ぼくね、ママがおしごとしているところすき」
「そっか。ありがと」
「ぼく、おおきくなったらくすしになる」
「え?」
思っても見ませんでした。まさかこの子が薬師になりたいと言うなんて考えてもいませんでした。
「ぼくもママみたいなくすしになるんだ」
「…………」
「ママ?」
「ううん。なんでもない。薬師になるならたくさん勉強して、薬師学校に行かなきゃね」
「うんっ」
母親として、薬師として、できれば私と同じ道は歩んで欲しくありません。薬師でいる限り辛い現実を何度も目にすることになります。この子にはそんな思いはしてほしくありません。
(でも、薬師になりたいって言うなら応援するのも母親だよね)
私のように学校へ行かず独学に近い形で薬師になるのは現実的ではありません。現役薬師が教えた方が効率は良いかもしれないけど、ちゃんと学校で学ばせた方が安心できます。
(ってことはまずは学費を稼がないとね)
王都へ引っ越すことも視野に入れないといけないけど、ますはお金の工面が先です。つまり、私も頑張って働かないといけないってことです。
(これで患者さんを診る口実が出来たね)
息子の将来のためと言えば誰も文句は言いません。エドはなにか口煩く言うだろうけど、やっぱり書斎で大人しくしているより患者さんと触れ合う方が私に性に合っています。
(さ、明日からまた頑張らなきゃね)




