その②
◇ ◇ ◇
市街地から離れた王都の北側。私の生まれ故郷であるジギタリスへ向かう街道から少し外れた場所に墓地はあります。
共同墓地の一角に建立された墓石には私がよく知る人物の名が刻まれています。
――ルーク・ガーバット
師匠の名が刻まれた墓石の前には枯れ朽ちた花束が置かれていました。
(誰か来てくれた人がいるんだね。良かった)
誰が供えてくれたのかわかりません。けれど師匠のことを想ってくれる人がいることを嬉しく思う私は墓石の前で跪き、胸の前で手を組み静かに祈りを捧げました。
(……師匠、遅くなってごめんなさい)
8年振りに帰ってきた私を師匠は天国からどんな風に見てくれているかな。あまりにも顔を見せないから心配していたかな。
(お店は相変わらずです。エドとも仲良くやっています)
小さな村の薬局なので懐が潤っているとは言えません。それでも家族3人が食べれてアリサさんたちのお給金を賄えるくらいの利益は出ています。エドとも喧嘩することもあるけど仲良し。昔と変わっていません。
(サラちゃんも一人前の薬師を目指して毎日頑張っています)
最初は私に師匠が務まるのかなって不安なこともあったけど、いまでは師弟楽しくやっています。今回だってサラちゃんがいるから里帰りが出来ました。
(……ねぇ、師匠?)
墓石に向けて問い掛ける私は師匠が亡くなってからずっと気になっていた、心の奥でずっと引っ掛かっていた不安を口にしました。
「――師匠の店を引き払ったのは正しかったんでしょうか」
師匠の店は薬師協会へ委譲し、別の薬師が薬局を開いています。
当時――いまもそうだけど、私に店を二つ持てるだけの余裕はなく、師匠の店は引き払うしかありませんでした。師匠もこの店は好きにして良いと言い残して旅立ちました。それでもあの時以来、心の何処かで本当にそれで良かったのかと不安に思う自分がいます。
――正しいかはキミしか分からないよ。
「――っ⁉」
聞こえた声にハッとして辺りを見回します。
(……師匠?)
もう二度と聞けることはないと思っていた師匠の声。空耳なのかもしれないけど間違いなく聞こえた大好きな声に心の中で痞えていたなにかが取れた気がしました。
(私しか分からない……そうですよね)
師匠との大切な思い出が詰まった場所を手放すのは辛い決断でした。それでも空き家にしておくよりも新しい薬師に継いでもらう方が絶対良い。その判断に後悔はありません。ようやくその気持ちに自信を持てた気がします。
(師匠。私、もっと頑張ります。国一番の薬師にはまだなれそうにないけど、国一番の薬師になります)
――だから、もう少しだけ私たちを見守っていてください。
師匠の店を引き払う時に誓った誓いを改めて師匠の墓石へ誓う私はこれから先も師匠が黄泉の国で不自由なく過ごせるよう深い祈りを捧げました。




