その②
◇ ◇ ◇
セント・ジョーズ・ワートに着いた私たちを出迎えてくれたのはリリアさんとハンスさん。リリアさんとは比較的よく会うけどハンスさんと会うのは何時ぶりだろう。
「久しぶりだね。この間怪我人を連れて行きたのが2月だったかな」
「そうですね。いつもとはいえお世話になりました」
「気にすることは無いさ。エド君とは最後に会ったのは何時だったかな」
「ルークが生まれる時だから5年くらい前ですかね」
「もうそんなになるのか。月日が過ぎるのは早いな」
ルークは元気かいと尋ねるハンスさんに「ソフィーに似てきました」と苦笑いするエドはチラッと私を見ました。
「ちょっと! ルークはエドに似てるでしょ」
「いやソフィーに似てるな」
「お昼寝してる姿はエドそっくりだよ⁉」
「コラ。喧嘩しないの」
つい口喧嘩を始める私たちを諫めるリリアさんは肩を竦めます。その様子にハンスさんは微笑み、周囲が見れば娘夫婦とその親と言った感じでしょうか。
「さてと、今日はハンスのところに泊まるんだっけ?」
「はい。せっかくなのでウチには無い医術書を読ませて貰おうかなって」
「やっぱりあんたはうちに泊まりなさい」
「ええっ⁉」
「ここまで馬車で来たんでしょ。王都まではまた馬車なんだから今日はちゃんと寝なさい」
これは薬師としての命令と言わんばかりにリリアさんは腕組みをして私を睨みます。これは素直に従った方が良いかな。
「あ、エドはハンスのところで良いから」
「「え?」」
「久しぶりに会うんだから積もる話もあるでしょ。たまにはエドも誰かに愚痴を言わなきゃ」
「俺、別に愚痴なんかないですけど」
「あ、私と離れたくないんだぁ~」
「リリアさん、そのバカさっさと連れて行ってください」
「まったくあんたたちは――そう言うことだから、ハンス。そっちは頼んだわよ」
あれ? これって端からリリアさんのところに泊まることになってたんじゃない? ハンスさんも平然としているし、もしかして私の考えが見透かされていたのかな。
「ハンスのところに泊まるって聞いた時から薄々わかってたけど、少しは休むことを覚えなさい」
「だって……」
「とにかく長旅になるんだから今日はしっかり寝なさい」
でなければ村へ追い返すと言うリリアさんは私の手を引きます。この歳になって誰かに手を引かれるのは恥ずかしいけど、そんなことリリアさんはお構いなし。
「ほら行くわよ」
「うぅ~」
「じゃあな。ちゃんと寝ろよ」
「エドの裏切り者~」
薄情者の旦那様はハンスさんと共に私たちとは逆方向へ歩き出します。これは本当にリリアさんのところでお世話になるしかないみたいです。




