その③
「サボるんじゃない。身体を休めるのよ」
「え?」
「あんたの真面目で患者と真摯に向き合う姿は誇れるものよ。けど、だからって自分を犠牲にしちゃダメ。そんなところまであのバカに似なくて良いの」
「あのバカ……師匠のことですか」
小さく頷くリリアさんは昔のことだとそれ以上話してくれません。代わりにこれを機にサラちゃんに店を任せてみてはどうかと提案します。
「あの子もそれなりに腕はあるでしょ。いい機会だから任せてみなさい」
「で、でもまだ修行中ですし……」
「免状取ってすぐ店出したのは誰よ。あたしも様子見に来るから」
「リリアさん――そうですね。今度は私がサラちゃんに任せる番ですよね」
「そういうことよ。アリサも、この子のお守りは大変だと思うけどお願いね」
「ちょっと! その言い方酷くないですかっ」
「あんたはいつまでも子供よ」
頭を撫でることで私の機嫌を取ろうとするリリアさんは微笑み、その目は私がルークに向けるような優しい瞳をしていました。
「あたしにとってソフィアは娘も同然よ」
「リリアさん?」
「いくらだって迷惑かけて良い。でも心配させないで」
初めてです。リリアさんがそんな風に私を思ってくれていたなんて考えたこともありませんでした。
リリアさんと私は師匠と弟子。それ以上でもそれ以下でもないと思っていました。私にとって育ての親は師匠だけ。そう思っていた自分が恥ずかしくなります。
「リリアさん――」
「なに?」
「ありがとうございます」
「別にお礼を言われるようなことはしてないわ。さてと、戻りましょ」
「あ、リリアさん照れてる」
「うるさい。ほらチビ助も呼んでるみたいよ」
照れ隠しのつもりなのかルークを出しにして書斎を出るリリアさんだけど、たしかにリビングから私を探す声が聞こえます。少し早いけどお昼寝から目が覚めたみたい。
いつかはサラちゃんにお店を任せる時が来ると思っていたけど、心の何処かで不安に思っていた私。リリアさんに背中を押されようやく決心出来ました。まだ全部を任せることは難しいけど少しずつ彼女にこの店を任せてみようと思う私でした。




