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先輩薬師の後輩育成日記  作者: 織姫
第10.5話 コウノトリ

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コウノトリ

 みなさんこんにちは。サラ・オレインです。

 冬の足音が近づく11月のある午後。わたしはルーク君と一緒に店番をしていました。

「ママ、まだかえってこないの?」

「もうちょっとしたら戻って来ると思うよ」

「はやくママとあそびたい」

 口を尖らせ拗ねるルーク君も可愛いな。本人は早くソフィーさんと遊びたいようだけどちょっと得した気分です。

 ソフィーさんは往診へ出掛け、エドさんは村の人たちと暖炉用の薪を取りに行っているのでいません。アリサさんもエドさんと一緒にいるので必然的に店番要員となったわたし。いまは調薬室で薬学の本を読みながらルーク君の子守をしています。そういえばルーク君と二人になるのって初めてじゃないかな。

「おねーちゃん」

「なに?」

「おえかきしよ」

「お絵描きかぁ。良いよ。ちょっと待ってね」

 読みかけのページに栞を挟み、椅子から立ち上がると書棚からノートを取り出し、ペンと共にルーク君へ渡しました。確かこのノートは使ってなかったはずです。お絵描き帳にしても大丈夫だよね。

「はいどうぞ。なに描くの?」

「おねーちゃんもいっしょにかこ?」

「え、わたしも?」

 ペンをわたしにくれるルーク君は満面の笑みを見せます。その顔を見たらなにも描かない訳にはいかないけど、絵が下手なんだよなぁ。

(で、でも、相手は子供だし――)

 あまり上手に描いても大人気ないからここはあまり真剣にならず――つまり下手でも大丈夫だよね。

(それはそれで大人気ない気もするけどルーク君を立てる為にも――誰を描いているのかな)

 ペンを手に題材を考えながらルーク君の様子を観察していると、伸び伸びと誰かを描いていました。長い髪の女の人で手には手提げ箱のようなものを持っているけど、ソフィーさんかな。

「ママを描いてるの?」

「うん。あとねパパととりさん!」

「鳥さん?」

 エドさんは分かるけどなんで鳥? 鳥が好きなのかな。理由は分からないけど一通りソフィーさんを書き上げ、今度はエドさんを描き始めるルーク君は楽しそうにペンを走らせています。

「ママがいってたの。とりさんがきょうだいをつれてくるって」

「きょうだい……? あっ」

「ぼくね、いもうとがほしいんだ」

「へ、へぇーそうなんだ。鳥さんが連れて来てくれると良いね」

「うんっ」

 満面の笑みを見せるルーク君を前に本当のことを言えません。彼の言っている“鳥さん”はたぶんコウノトリのことです。

(……ソフィーさん。自分で“傷口”広げてどうするんですか)

 ソフィーさんの“黒歴史”を聞いた時は驚きました。でも本当のことをルーク君には言えず、真実は心の中に仕舞っておこうと決めました。


                  ◇ ◇ ◇


「えっ、ルークがそんなこと言っていたの⁉」

「はい」

「ソフィー、自分で“黒歴史”とか言っておきながらルークにはそんなこと言ってたのか」

「だ、だってほんとのことは言えないでしょ」

 ティーカップを両手で持ち、顔を隠すようなしぐさをするソフィーさんはなんとなく居心地が悪そう。ルーク君がお昼寝したところでティータイムにしたけど、今日はちょっと間が悪かったかな。

「ま、まぁ。ルーク君も大人になったら分かることですから」

「ここに大人になっても知らなかったポンコツがいるぞ」

「ちょっと! ポンコツは酷くない⁉」

「二人とも、そのくらいにしろ。それで、どうなんだ?」

「どうって?」

「ルークは妹が欲しいそうだぞ?」

「それは……ね?」

「あ、ああ……」

 アリサさんが意地悪っぽくソフィーさんたちを見つめ、二人はバツの悪そうな顔で互いを見つめています。

「コウノトリにお願いしよっか」

「そ、そうだな」

「わ、私たちだけじゃどうしようもないからね」

 えっと、これは突っ込むべきなのかな。傷口に塩を塗っていくソフィーさんをアリサさんはニヤニヤしながら見つめ、エドさんも困ったように下を向いてます。なんだか置いてけぼりを食らった感じですが嫌な感じはしません。10年近い付き合いがあるから出来るちょっとした特権なんだと思います。だからこそ、わたしもいつかはソフィーさんたちと意地悪を言い合える間柄になりたい。そう思うのでした。

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