その①
前略
元気にしてる? サラの様子はどうかしら? あの子、あんたと同じでなかなか手紙寄こさないから心配してるのよ。
それはそうと、今年はいつもより早く熱発疹が流行り始めたわ。チビ助もいるんだから注意しなさい。あんたは薬師である以前に母親なんだからね
リリア・ゲーベル
残暑も収まりつつある9月の終わり。
「ったく、薬師がなにやってんだよ」
「うるさい。私だって……ゴホッ」
「ああもう。わかったから寝てろ」
起き上がる私を押し倒すようにしてベッドへ寝かすエドはどちらかと言えば呆れ顔。風邪をひいてしまった妻を心配する素振りを見せてくれません。
「少しは心配してくれても良いじゃない」
「寝る時間削って書斎に籠ってたバツだ。誰だよ『朝晩は冷えてきたね』って言ったの」
「あのくらいの冷え込みなら大丈夫だよ」
「じゃあなんで風邪ひいてんだよ。ルークは俺が見てるからたまにはゆっくり休め」
「……うん。ありがと」
「あとでサラが薬出すってさ」
「自分で作れるよ」
「病人は黙ってろ。あいつの成長を確かめる良い機会だろ」
とにかく今日は寝てろと頭を撫でてくれるエド。仕方ないから優しい旦那様に免じて大人しくしてよ。たしかにこんな時でもなければサラちゃんの薬を飲むことは無いもんね。
「なんだよ」
「ううん。なんでもない」
「それじゃ、ルークと下にいるから。なにかあったら呼べよ」
「ありがとね」
ルークの手を引き寝室を出て行くエドに手を振る私。ルークは不安そうに私を見るけど大丈夫。このくらいママは平気だからね。
ここ数日夜更かしして書斎に籠っていたせいで風邪をひいた私。仕事柄なのか薬師は体調を崩しやすいと言われるけど、今回は完全に自業自得です。それもまぁまぁ症状は重く、2人の前だから誤魔化していたけど熱は高くて頭もガンガンしています。
「ハハハ。久しぶりに本格的な奴かもね」
薬師は体調を崩しやすいと言ってもそれは一般論であり、少なくとも私には全く当てはまりません。ちょっと体調が優れない日はあっても寝込むほどの病気は数年に一度しかありません。
「ちょっと頑張りすぎたかなぁ」
予定していた往診はサラちゃんにお願いすることになったし、それだけでなく私の分の薬まで作ってもらうことになるなんて。しばらく夜更かしは控えようかな。
「サラちゃんが戻って来るまで寝てよ」
起きていてもこの感じだとなにも出来なさそうだし、ベッドの中の私は目を瞑り身体を休めることにします。薬師がいつまでも寝込んでいては意味がありません。早く治さないと。




