CASE1 ラプンツェル事件 #4
今回、最後の方で、バトルシーンぽいのがちょいでます……バトルもの難しいっす
警察所で捜査権内で浮かび上がった容疑者のいくつかの写真が並んでいる。
その中に写真に一つに警視の指がささる。
写真の男は、茶色の細い丸目のアンダーリムの眼鏡。ゆるふわのな茶色のパーマ。身長172センチほど。顔つきは塩顔の優男。ゆるい白い上着を着ている。
「この男は鳥飼 翼……新宿の西側で喫茶『止まり木』を個人で経営している。この男は営業後、アリバイがない。ちょうど、どの事件の時も近くの現場で目撃されている…………」
今回のラプンツェル事件の捜査会議が終わり各自解散……刑事達は捜査に戻る。
「金木さん。どう思います……鳥飼という男……」
「まぁ、怪しいといっちゃ怪しいわな……」
二人は所属する部署に戻り缶コーヒーをすすりながら、コピーされた、男の写真を見ている。
「でもな、この男……変異暴徒化の方でも度々、写ってるんだよ」
「えっ、そっちの方と今回の事件が繋がってるってことですか……?」
「だが、調べようとしても……どうしても、上の方からストップをかけられちまうんだ」
「どういう事ですか……警視より上の立場の人間が……」
「だんだん、今回の件……きな臭くなってきやがった……」
刑事達は腕を組み、唸り続ける……
神田萌乃は店長の鳥飼に相談したあの日から……どうしても、いてもたってもいられなかった。
友人がなぜ、巻き込まれたのか……別に自分が犯人を捕まえようとまで自惚れていない。ただ、少しでも情報を集め警察に提供できればそれでいいと思っている。
あの日以降、何度か歌舞伎町に向かい京子の写っている画像で聞き取りをしていた。
もちろん見つかるはずもなく情報は集まらない。
そして、数日が過ぎた今日もバイト終わりに情報収集をしていた。
相談したあの日以降店長から、ある事を釘さされている。
『最近、新宿近辺で事件が多いので……絶対にまっすぐ家に変えること……いいですね!』
だが、萌乃は守らなかった……
そして今日はいつもの流れと違った……
「えっ、その女の子……知ってる知ってる。見たよ刺された所」
長めの金髪のロン毛のホスト風な男がそう証言したからだ。
「あの、どういう状況だったんですか?」
「あぁ、ここじゃ、言いづらいな……だってもしかしたら……」
男は声を小さくし、萌乃の耳元で囁く。
「その犯人近くで聞いてるかもしれないし」
「なるほど! そうですよね……もし、聞かれていると……」
「そうそう、俺らまで巻き込まれるかもしれないじゃん……」
「それじゃ……」
「そうだね、そこの裏路地とかたぶん人と通りないから……そういう奴も敢えて警戒して、来ないかもね」
「なるほど、ご協力ありがとうございます!」
萌乃はなぜか敬礼をする。その姿を見て、男はニヤニヤし先を歩く。
ビルとビルの隙間を進む。裏路地に入ると本当に人気がなく、薄暗い……萌乃はキョロキョロしながらついていく。
「ここら辺でいいか……」
「はい! では、教えてください!」
男は、急に萌乃の両肩を掴み、壁に押し付ける……
ドン!
思い切り壁に当たり、その衝撃で萌乃は息を詰まらせた。
「俺ね、君みたいな田舎っぽいけど可愛い女の子をいじめるのが好きなんだよね。それも外でヤルのが好きなの。ダメだよ……知らない男を簡単に信用しちゃ~。フフッ、その苦しそうな顔を……すごく興奮するよ……」
男は息がどんどん荒くなっていき、肩から手をはずし萌乃の胸に手を伸ばそうとした。
軽く朦朧とする萌乃の意識に、京子との記憶が甦る。
『もし、男に襲われそうになったら思いっきり蹴り上げろ。自分が優位だと思ってる奴ほど気が抜けてるから』
萌乃は何も考えず、ただ足を思いっきり蹴り上げた。
ドン!
いやその絵面的にはまるでギャグ漫画のようなチーン!! の方が似合うだろう。
男は息が止まり、足元が崩れうずくまる。そのあと低く呻いていた。
「クソ女……まてぇよ……」
さっきまで性欲にまみれていた男は今はただ情けなく去勢されたオスのようだ……
萌乃は男から離れ、路地裏を走る。そして、ようやく人気のある通りに出ようとしたが……目の前には、美しい金髪の女性がボーッと立っていた。
服装は、長い丈のゆるふわな白のブラウスと、黒のスカート。
だが、そんな事より……ついつい彼女は、その月夜に照らされた女性の黄金の髪の毛が美しく、見とれてしまった。
それとは反対に、後ろからショボい足音が響く。きっと、さっきの男が追いかけてきてるよう。
「おい! 糞女! ブスのくせに……ぜったいに犯してやる」
ビルの合間で音が反響し、恐怖が増幅させる。
「見つけたぞ……」
その声に驚き振り返ってしまった……
だが、男は急に顔色を変え指をさす。
「ばっ、化け物!!」
その情けない声が発された瞬間、萌乃の顔の真横に金色の一筋の光が横切った。
そしてそれは、男の右肩を貫通し……胴体事、持っていかれさっきまで通った、突き当たりの壁にまで男は飛ばされた。
そして、過呼吸になり意識をなくした。
萌乃は理解ができず、小刻みに震える……
だが、目の前の女はお構い無しに近づいた……
「私、綺麗?」
「えっ」
萌乃は理解できず、女に聞き返してしまった。
「私、綺麗?」
そうすると今度は萌乃の顔に彼女の顔を寄せる。
近づいて、ようやく気がつく。目の前の人物は彼女ではなく、彼だと言うことが。
そして、日本人ではありえない目の虹彩の部分が金色に光る。
『あれ、でも、この人……見覚えがある……誰だっけ……』
萌乃はこんなありえない土壇場でふと冷静になり、そんな事を考えている……
「私、綺麗?」
彼は同じ言葉を何度も繰り返す。これじゃただのRPGの村人Aと話している様だ。萌乃はこのままじゃ埒が明かないと観念し、何か言おうとした……
「どうかしました?」
突然聞こえてきた覚えのある声に、息を飲む萌乃。
そう、鳥飼が店締めを終わらせてから、私服でブラブラと出掛けていた様だ。
ロング丈、袖丈と袖口が広いしっかりとした白のチャイナシャツ。黒のサルエルカーゴパンツ姿だ。
「あの、その女性は私の知り合いなので……何があったかしりませんが、絡むのやめてもらえませんか?」
「てっ、店長逃げてください……」
彼は萌乃から狙いを外し、今度は鳥飼に話しかけた。
「私、綺麗?」
鳥飼は目の前の彼を無視をする。
「神田さん、この人私の方に向いてるので……私の事はほっといて逃げてください!」
「できません! その人……危ない人なんです!」
「いいから、私なら大丈夫ですから……」
「私、綺麗?」
「今から、私がこの人引き留めるので……絶対に絶対に、ぜっーたいに逃げてください!」
萌乃は鳥飼が何を言っているか理解できなく、テンパってしまう。
「そ、それってフリですか?!」
「こんな時に、伝説のトリオ芸人みたいなノリやるわけないでしょ!」
「私、綺麗!?」
その男の方も、無視されている事に腹を立てたようで……遂に語気が強くなり、鳥飼を睨み付ける。そして、何度も同じことを言われ、鳥飼は少し悩んだ後……ニヤッと笑った。
「あの……あなたは、あの人……に負傷を負わせてますし……」
鳥飼は、後の方でぐったりしているチャラ男を指差す。それから手をおろし、彼に笑顔を向けた。
「あなたはただの人間の皮を被った……いや、洗ってないカスが溜まった臭くて汚い包茎のような、醜い醜い化け物です。女のふりをして罪から逃げようとする卑怯なキモいオカマやろう。野外オナニーをしている……糞変態野郎だ」
「お前、絶対にコロス!! 息、トメル! 絶対にコロス!!!」
そう言った瞬間に、男の長い金色の髪は……その束のままかたまり……鳥飼の脇腹を貫いた。髪の毛を引き抜くと、円型10センチほどの穴が空き、向こうの灰色の壁が見える。そして、鳥飼のメガネ、アンダーリムはずれ……崩れ落ちる。
血飛沫は、周辺に飛び回る。金色の髪の毛に大量の鳥飼の血が付着して、ぽとぽとと滴る。
目の前の状況に萌乃は声がでず、愕然としている。
友人の次は、バイト先の店長……彼女と関わった人間は二人も犠牲者になったのだ……
彼女は膝を折り、頭が真っ白になる……そして心の中で彼女も目の前の男の様に、同じ言葉を心の中で何度も唱えた。
『ごめんない、ごめんなさい……』
彼女は力が入らず、口は半開きで放心状態になる。そして、自分の無力さ……それと蹂躙され、考える事をやめる事を知った……
「いっ、いってぇぇ……チッ、やっぱり死ぬほど痛いわ……これぇ……」
萌乃は、もう二度と聞けない声に反応し意識を戻す。咄嗟に、死んだと思われる男を見た。
「なんで……」
「あぁ、せっかくのオートクチュールが……まぁ、いいや……まだまだ、変わりあるし……」
鳥飼は、口から垂れている血をこすり立ち上がり、ずれたメガネを直した。
「さて、処刑の時間だ」