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SHAME PUNISHER ~童話征戦~ (仮)  作者: 鎚谷ひろみ
3/8

CASE1 ラプンツェル事件 #1

季節は春……4月の終わり……


大学二年生の神田 萌乃は、ずれた大きめのスクエアフレームの眼鏡をかけ直し、大学の教室を急いで出ようとしていた。



「萌乃! 今日もバイト!?」

「うん! 」

「あんた、ホント、バイト好きだね!」

「だって、コーヒーの匂いに包まれるっていいじゃない! それに静かで大人な気分なんだもん!」

「へへへっ! あんた、どうせ……あの店長さんが好きなんでしょ?」


萌乃は全力で首を振った。


「違う、違うよ! そりゃ、かっこいいし、ミステリアスで大人で魅力的かもだけど……」

「けど?」

「なんか、たまに何考えてるかわからないし……」

「いや、それがミステリアスっていうんじゃないの?」


友人の京子が、快活に笑う。笑うと彼女の栗色の髪がサラサラと教室の電灯に反射して揺らめいた。


「えっ、そう言えば聞けたの? 趣味とか年齢とか個人情報?」

「いや、聞いても……『仕事中だから、駄目だよ』って言われるし……」

「お客さん、いない時とか聞けんじゃないの?」

「そう言う時に限って、店長他の雑務やってるから……邪魔になるといけないから聞けないの……」

「へぇ~……まぁ、個人情報言いたくない人いるからね……」

「あっ! でも、私服は見たんだ……」

「私服?」

「うん! 狭い店だから更衣室が一つしかないし……従業員も私しかいないから」

「どんな服なの……」

「それがね……仕事着と変わらなくい……色が上が白で、ズボンは黒」

「ふーん」


京子は、萌乃のバイト先の店長の話しに飽きてきたようで、スマホをいじり始めた。



「でも、でも……なんかスタイル的には、結構ゆったり目の服を着てるみたいで……生地も丈夫そうだし、きっといいブランドそうだし……匂いもね、いい匂いするの」

「あんた、まさか……」


京子はスマホを動かすのを止め、軽蔑そうな目で萌乃を見る。


「まさか、店長の私服を……直で匂い、嗅いでんの?」

「そんな事しないよ!! 変態さんじゃん! ………… ただ、『いい服だな……』って思って、ちょっと動かした時に……フワッて香りがしたの!!」

「まぁ、あんたが変態だろうとそうじゃなかろうと、どっちでもいいんだけどさぁ~」


京子はニヤニヤしながら、彼女を見るが萌乃は納得しない様子だ。

そんな事をお構い無く、本を開いて萌乃に見せる。

「それより! これ観てよ!」

京子に差し出されたのは、ファッション雑誌。カットサロン等の情報も載っている。

開かれたページには、白に近いシルバーな綺麗な髪質、ミディアムロングくらい。肌と指が綺麗な……まるでジャニーズか宝塚のような美しい男性美容師『西条 ヒカル』が載っている。

「ねぇ! 給料出たら……ココ! 切りに行こうよ!」

「えぇ、値段高いじゃん」

「その代わり、ここで切ったらめっちゃ見違えるって噂だよ! それに……このカリスマ店員、イケメンだし! ほら……指が長くて綺麗で……エロいじゃん!」

「別に私! そんなのどっちでもいいし! 」


萌乃は恥ずかし気に、それを誤魔化す様に手を振った。


「もう! 私、そろそろ行くね!」

彼女は思い出したかの様に、入り口に向かう。


「あんた! 最近、通り魔出てるから帰り気をつけてるんだよ!」

「うん、わかってる!」


萌乃は友人に大きく手を振った。その動きに連動し彼女の長い二本のおさげ髪とスカート、ゆるふわの服が揺れる。


彼女は半年ちょっと働いているバイト先へ向かった。






「おはようございます! 」

「おはようございます」



萌乃は新宿の勤務先に着き、仕事着に着替え5分前にはホールに出る様にしている。


東京に来て初めてのバイトがここで、彼女は面接の最後に、店長に質問した返答を守っている。






「神田 萌乃さん。面接は以上です。では次回の水曜日から働きましょうか……最後に質問とかありますか?」

「あの!……」




彼女にとっての初めての面接……

この店を選んだのは新宿という丁度いい利便性と、都会の喫茶店という所に憧れて選んだ。

彼女は受かる為に、すぐさま外の張り紙を外し、それを持ち店内に入って面接にこじつけた。

その時店長は、流石の彼女の行動に驚き……だが、吹き出してから笑っていた。



そうして、こういう面接の時の最後の質問はした方がいい……とネットで調べたのだ。




「私、ここが初めてのバイトなんですが……何か守った方が良いことってありますか?」

質問され、店長は空を見つめてから、鼻息を漏らす。


「そうですね……仕事の面では、これから教えていきます。今から言うことは……」


彼は三度ほど、指をトントンと叩く。


「これは個人的な考えなのですが……君が大学を出てから社会人になった時、職場には5分前には出た方が職場の人々に気に入られると思います。なので……ここで試してみませんか?」

「はい!! わかりました!!」


彼女は間髪入れず、元気に手を上げて答える。彼女はそれくらい素直なのだ。






彼女がこの半年間で学んだ業務は、接客と厨房での軽い調理と洗い物や掃除等の雑務……


店内は、だいたい20テーブルほど。カウンターからある程度お客さんの状況を見渡せるくらいだ。

新宿の一角なのに、経営できてる理由はたぶん値段設定もあるだろう。

コーヒー1杯やドリンク類、1000円以上から。食事もそれ以上である。


だが、お客さんは普通に来客している。

コーヒーの品質しかり、備品にこだわっているからだろう。

食品は、そんなに高級な物は使ってはいないが……店長の作る食事はどれも美味しい。


なんと言ってもこだわりのカレーが絶品なのだ。萌乃は賄いで出されたカレーとコーヒーに毎回舌鼓している。



まぁ、その値段設定のお陰でそこまで質の悪いお客は来ていない。



毎回、萌乃が出勤すると洗い物が溜まっておりその処理から手をつけるのだ。



萌乃は腕を回し気合いを入れる。

「では、神田さん。今日もよろしくお願いします」

「はい! がんばります!」




そして、彼女のバイト先での日常がはじまる。

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