終わりまでの始まり方。
はじめまして。
今回の小説は、僕が行ってみたい異世界への憧れであり、妄想です。
この世界はこうで、こんな仕組みがあって、こんな人達がいて。
そんななんでもない妄想冒険譚を書き連ねて行こうと思ってます。
ちなみにもう終わり方は決めてますので、それまでを目標にして物語を考えてます。
なんてことの無い朝だった。
「ぁあ〜…」
ガラスの外の小さな空。
カーテンで仕切った外界から、早起きな小鳥たちが近くの木で鳴き始める。
それで起こされるのも慣れ、今ではお金と気力のかからない音鳴き時計の代用としている。
雨の日なんかは起きれないことも多々あるけど。
布団を押しのけ、バランスの取れない身体を無理やり立たせた。
丸太に刺さっているナイフの柄から革の上着をとり、重い瞼を乗せたまま自室のドアを押す。
師匠は朝に弱いから、洗濯も朝ご飯の準備も全て私の仕事だった。
バスケットに溜まった衣服を近くの川で洗い、帰り道ついでに食べれそうな肉茸や山菜を採って、朝ご飯を作る。
朝の仕事は別にやりたいわけでは無いが、自主的に選んだ。
その訳には師匠の存在があった。
彼曰く「この土地を調べに来た研究者」らしく、起きてから寝るまでのほとんどの時間を、私には分からない研究に費やしている。
寝ている時以外に休んでいるところを見たことがないが、よく気分転換だ、と言って私に弓と体術の稽古をつけてくれる。
研究に入り浸る前は冒険者だったらしい。
その頃の話も聞こうとしたことがあったが、何故かとても悲しそうな顔をしてやんわりと断られる、私もいつからか気にならなくなった。
「おはよう。」
しばらくしたら、翠玉色の目を擦りながら亡霊のような師匠が現れた。
船を漕ぐボサボサの頭が、何度も壁にぶつかる度に笑ってしまう。
寝惚けた彼と同じ食卓を囲み、皿洗いを済ませたら「いってらっしゃい。」とまだ眠そうな緩い声を背中に受け、弓と本とペンを持って森へ行く。
心地のいい空気で肺を浄化する度に口角が少し上がる。
目的地までの少しの散歩道。
いつもより歩幅を広くして歩き、木の隙間をぐんぐんと抜けていく。
師匠にはいつも「修行もいいけど、魔物が居るから気をつけなさい。」と口酸っぱく言われているけど。
すぐ近くのキノコ熊だってお腹を出して、大きな体を上下させながら鼻ちょうちんを膨らましてる。
私の好きな、平和な時間だ。
それに、師匠との特訓以外で強くなれる手段があるなら、片っ端から実践してみたい。
私にとって強くなればなるほど、外の世界をもっと知ることが出来ると思ってるのだ。
いつか旅ができると、そう信じているからだ。
そんな考え事をしてるうちに、目的地のすぐ前まで来た
いつもよりなんだか騒々しいが、特に気にしない。熊のキノコを狙ってる小魔物でも多いのだろう。
さて、今日も修行の時間だ。
鼻歌交じりに歩みを早める。
勢い良く扉を蹴飛ばすように、私はその場所へ飛んだ。
「やっとついた──────────
「い"あ"あ"あ"あ"あ"あ"は"あ"あ"っうぇ"っう"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!」
『フッ、グァフ』
開けた場所、真ん中の大きな切り株、それの上で喉を枯らすほど泣き叫ぶ奇抜な服の男の人、玩具を貰った犬のように男の人を甘噛みしてるマッシュベアー。
いつも通りとかけ離れた目の前の景色に、脳が一瞬だけ思考を止めてしまう。
『ベロベロベロベロベロ』
「う"う"う"う"う"う"う"う"ごほッう"う"う"う"ぅ"ぅ"う"う"!!!!!!!」
「な、あ、なん、え?」
─────なに、これは。
マッシュベアーの気性は温厚で、むしろ他の動物に対しても友好的だ。
子供の頃から誰もが知っている知識のはず。
…流石に、じゃれて遊んでいるだけだったかな?
「はあっ、はあっ、待って!?待てって!?ま"っっって"!!!!!」
『………(両前足を男の脚に置いて"待て"の姿勢。)』
「は"な"し"て"よ"!!!!!!!!!!」
本気だ。
本気で叫んでる。
めちゃくちゃ、嫌がってる。
見るに耐えなくなり、近くに生えていたキノコを3つ採り、マッシュベアーを誘導する。
すると、私の手の平にあるご馳走に気が付いたのか、あっさりと拘束を解いて近づいてきた。
涎を垂らしながらキノコを平らげ、満足したのかどこかへ行ってしまった。
「あの、大丈夫ですか…?」
「__ありがどお"お"お"ぉ!!」
「うわっ!?」
平穏を取り戻したはずの空間。
いつも通りを壊したイレギュラーな存在。
まだ泣き叫ぶ彼に何をすれば良いのかも分からないまま、
ただ、変わり始めた日常を感じる。
少年と少女の出会いは、唐突で不可思議なことだらけだった。