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大人気カップルチャンネルのビジネスカップルが実は両思いなんだけど、ビジネス関係を壊すのがいやでお互い告白できず、両片思いのまま動画内でだけ甘々カップルを演じてプライベートではじれじれするやつ

掲載日:2022/05/20



「どうもー! 旦那役の『はぴりたん』です!」

「女房役の『さいたな』です!」

「「二人合わせて『たなはぴチャンネル』です!!」」

「それじゃ、はぴ、さっそく今回の企画をどうぞ!」

「今回の企画はこちら! 『新作コンビニスイーツ食べてみた』です!」

「いえーい!」


 『たなはぴチャンネル』ルールその一。

 撮影中はテンション高めを意識すること。


「でも、さいたな。ただの食べ比べじゃつまんないでしょ?」

「そんなことないけど」

「つまんないでしょ?」

「圧がすごいんよ」

「なんと! 今回はぜんぶ『あーん』で食べさせあいっこです!」

「え? あ、あーん? 恥ずくない?」

「恥ずかしいけど、そこはまあ、企画なので……」

「二人っきりならぜんぜんできるんだけどね。みんなに見られてるとね」

「二人っきりならぜんぜんできるんだ!?」

「そりゃできるよ。なんなら、毎食はぴりたんに『あーん』してもらいたいくらい」

「ええ!?」

「掃除と洗濯もぜんぶやってもらって、わたしは寝て起きて本読んで寝るだけの生活。最高じゃん?」

「最低だよ!」


 『たなはぴチャンネル』ルールその二。

 撮影中は世界一のラブラブカップルであること。


「それじゃ、あーん……」

「あー……ん。む! うまい!」

「わたしがあーんしたからだね」

「企業努力でしょ」

「はぴ、アンタ彼女に向かって正論パンチとはどういう了見だい。味はどう?」

「クリームチーズのソースがまじでうまい。さいたなも食ってみ。あーん」

「あー……ん。わ、これうま!」

「でしょ! おれがあーんしたから」

「企業努力だよ」

「うーん正論。この商品、動画が公開される日に発売開始させております! ぜひぜひ、買ってください! というわけで!」

「今回はここまで! グッドボタンとチャンネル登録よろしくお願いします! それじゃっ、せーのっ」


「「たなはぴー!!」」



「……はい、撮影終了です。お疲れっした、さいたな……じゃないや。アキカ先輩」

「おつかれー。はぴ、このお菓子、自腹?」

「まさか。経費で買ったやつっすよ」

「だよね。余ったやつ持って帰っていい?」

「アキカ先輩、ダイエット中じゃありませんでしたっけ。仕事以外でお菓子食べたらトレーナーさんに怒られるんじゃ」

「はぴ、アンタ彼女に向かって正論パンチとはどういう了見だい!」

「いや……彼女って。僕らビジネスじゃないすか」

「そうだった。わたしら、ビジネスカップルだった。……事務所の先輩に向かって正論パンチとはどういう了見だい!」

「トレーナーさんに怒られても知りませんからね……?」


 『たなはぴチャンネル』ルールその三。

 撮影していないときは、カップルの演技をやめて事務所の先輩と後輩に戻ること。





 はぴりたん――モデル事務所所属のタレント。

 甘いルックスにふにゃりとした笑顔、明るいキャラクター、そしてサブカルチャーに詳しいオタク気質が男女問わず人気な『たなはぴ』の旦那役。


(……と、言われているけれど、本体は静かな男子大学生の吉崎コウなのでした、と。)


 コウはカメラからSDカードを抜きながら、さっさと荷物をまとめているアキカに目をやった。


(一方、さいたなは……。)


 さいたな――事務所所属モデルの『@KIK@(アキカ)』、もしくは女子大生の田中愛生華。

 顔面最強女子と称されるルックスに加え、動画投稿初期に自己紹介で「田中アッちがッ」を何度もやらかした経緯から、やけくそ気味に芸名に「顔面最強田中」を追加した、カップルチャンネル『たなはぴ』の女房役。

 さいたなは通称名だが、そちらのほうがキャッチーなので現在は自ら名乗っている。


 旦那、女房とはいうが、ふたりは実際に夫婦でもなければ、付き合っているわけでもない。

 あくまで、役割として旦那と女房を演じているだけ。

 ビジネスカップル――商売のために結成したユニット、偽物のカップルだ。

 動画投稿が一般的になった平成後期から、多くのカップルチャンネルが台頭して隆盛を極め……そして、その大半が破局し、動画投稿活動をやめてしまった。


(男女どちらの支持も得やすいカップルチャンネルの脆弱性。実際に付き合っているがゆえの、関係の不確かさ。継続して活動すればするほど、黒地に白文字で『ご報告』しちゃうリスクが増えていく。)


 本物のカップルは、ホンモノであるがゆえに、あらゆるリスクが付きまとう。


(だから、僕らはビジネスでやる。)


 カップルチャンネル開設は、コウの発案だ。

 アキカを誘って、モデル事務所近くの防音マンションを借りてスタジオにした。

 まるで同居しているかのようなインテリアを揃え、カップルチャンネルとして動画投稿の大海に漕ぎ出したのが、半年前。

 とにかく顔が良く、頭の回転が速くて弁の立つアキカ。

 映像センスに優れ、サブカルに詳しいコウ。

 この二人の組み合わせは瞬く間にヒットし、わずか半年で登録者が五十万人を超えた、期待の新人カップルチャンネルである。

 『旦那役』『女房役』と、あくまでビジネスカップルであることを公言し、視聴者にある種の安心感を与えているのも人気の秘訣だ。

 そんな風に評価されてはいるが。


(……九割は、アキカ先輩のおかげだよな。)


 コウはそう思っている。

 かばんにお菓子を詰め込むアキカをちらりと見れば、いつ見ても顔がいい。

 さすがは顔面最強女子だ。

 半年間、一緒に仕事をしてきたコウでもまったく慣れない。

 思わず見とれてしまう。

 ふと、アキカがコウを見て、首をかしげた。

 見つめすぎたらしい。


「なに? じっとこっち見て」

「いや、なんでもないです。ちょっと考えごとしてて」

「あっそ」


 そっけなく言って、アキカがマスクを装着した。


「それじゃ、わたしは先に帰るわ。おつかれー」

「お疲れさまです、アキカ先輩」


 そのとき、スタジオの扉が勢いよく開いて、ひとりの女性が入ってきた。

 パンツスーツにアンダーリムの眼鏡がファッショナブルな、いかにも「仕事ができます!」といった風体の女性。

 事務所の正社員で、『たなはぴ』のマネージャーを務める女性である。


「いやあ、お疲れお疲れ! もう終わったよね? 帰るとこ?」

「あ、はい。そろそろ帰ろうかなと」

「ほい。編集なんだけど、いつも通りはぴりたんにお願いしていいの? けっこう稼げてるし、外注もできるけど」

「映像系進みたいんで、できればやらせてほしいです」

「んー。ま、本人希望なら嫌とは言わないよ」


 マネさんはスタジオ内を一瞥して、半目でアキカを見た。


「……アキカちゃん。かばんの中のお菓子は置いていったほうがいいんじゃない?」

「ぐ。バレた。……いや、そのぶん運動もがんばるんで、トレーナーさんには秘密に……」

「別にいいけど、あとで苦しむのは自分だからね?」

「うす」


(いまでもじゅうぶん細いと思うんだけどな。)


 そう思うコウをよそに、マネージャーは右手でスマホを、左手で手帳を開いて、視線を行ったり来たりさせながら「ふんふん」とうなずいた。


「そんじゃ、明日の朝からスタジオに清掃入れるね。急になんか撮りたくなったら、明日の昼以降にお願い。事務所から回してもらった企業案件はクラウドで共有してあるから、そっちも確認お願いね。企業案件だけこなしてくれたら、あとは自由に撮っていいから」

「あ、はい。了解っす。……あの、マネさん。今回も事務所の企業案件企画でしたけど、『あーん』はご時勢がら、どうなんでしょうか。感染症もありますし、その、僕ら……ビジネスですし。距離が近すぎるのはちょっと……」


 コウの控えめな提言に、マネさんが眼鏡の奥の目をナナメに釣り上げた。


「なに言ってんの! ほかのカップルにあまあま度で負けたら、急上昇ランキングにも乗れなくなるわよ!?」

「僕ら、そもそもビジネス公言してますし。あまあま度で勝てなくても仕方ないのでは」

「そんな消極的な! ダメよ! アキカちゃんはどう考えてるの!?」

「わたし? わたしは……」


 問われたアキカが、コウの目をじっと見た。

 マスクをしていても美しさがわかる顔面に、耐えられなくて視線を逸らす。


「……うん。わたしは、距離が近くても別に困らないけど。はぴはわたしの『あーん』、イヤだった?」

「い、いえ! そんなことはないです!」

「そ。じゃ、いいじゃん」


 アキカはかばんを持ち上げた。


「はぴ、もし明日も動画撮るなら連絡お願い。映画と読書で過ごす予定だったから、来れるよ」

「お休みなのに、いいんですか?」

「もちろん。ふたりそろってのチャンネルだし」

「わかりました。よさげな企画あったら、お願いするかもです」

「りょー」


 淡々と話していると、マネージャーが眼鏡をくいっと上げる。


「そういえばさ。おふたりさん、お休みの日に、一緒にご飯いったりしないの? 動画のエピソードにできるなら経費出るし、ちょっとくらい私的な付き合いあったほうがいいんじゃない?」


(食事。食事かぁ……。)


 コウが横目でアキカを見る。

 アキカもまた、コウを横目で見ていた。

 目から強い意志の力を感じて、コウはうなずく。


「いえ、僕らビジネスなんで、プライベートはちょっと」

「……そういうことです。わたし、このあと予定もあるんで。そろそろ行きますね」


 アキカのぴしゃりとした物言いに、マネージャーは苦笑した。


「うんうん、勧めといてなんだけど、ガチの恋愛って、いろいろめんどくさいしね! ほんとうに……ほんとうにめちゃくちゃめんどくさいからね……!」

「なんかあったんですか、マネさん」

「はぴ、放っておきなよ。どうせまたフラれただけ」

「うるさいやい! さっさとプライベートを楽しんできな、小童ども!」


 追い出されるように、コウもカメラをケースにしまって荷物をまとめてスタジオを飛び出した。

 マンションのエントランスで、ふたり並んでエレベーターを待つ。

 コウは点滅する階数表示を凝視しながら、つとめてアキカのほうを見ないようにしながら聞いた。


「ちなみになんですけど、このあとの用事って、なんですか?」

「大学の同期と飲み。相手、女の子だから写真撮られても問題ないよ。個室居酒屋だから、会話をすっぱ抜かれる心配もない」

「そうですか。なら、大丈夫です」


 階数表示が止まって、ぽーん、と音が鳴る。





 その日の夜。


「……あー! アキカさん、好き!」


 コウはチューハイの缶をテーブルに叩きつけて叫んでいた。

 場所は撮影スタジオよりも狭い学生賃貸のワンルームで、床には教材と文房具とマンガとスマホのケーブルが散乱している。

 部屋の主、コウの大学の後輩は半目になった。


「俺の部屋で酔っぱらわないでくれないスか」

「僕、自分ちでは酒飲まないことにしてるから」

「最悪な先輩だ……。まあ酒もつまみも全額先輩持ちだから、別にいいスけど」

「はっはっは、金ならあるんだ。動画がうまくいってるし、モデル業もあるからね」


 笑顔でそう言ってから、コウの両目から涙がぽろぽろと流れ出す。

 後輩が盛大に顔をしかめて、視線を逸らした。


「うーわ、また始まったよ」

「僕には……僕には金しかない! 金以外なにもない! 空虚な男なんだ……!」

「毎回言ってますけど、ンなことないですって。コウさんは金以外にもいいとこいっぱいありますって」

「たとえば?」

「……顔?」


 コウは机に突っ伏した。


「顔と金だけの男……! 中身空っぽ人間……!」

「いやいや、性格も悪くないスよ。ちょっと根暗ですけど……動画のキャラからは想像もできないくらい根暗ですけど……。ていうか、別に顔と金だけでも十分スよ。カップルチャンネルなんてやってなかったら、大学の女子ども食い放題でしょ」

「実は『二番目でもいい』とか『遊びでいい』みたいなお誘いはけっこうある」

「死ねこのヤリチン野郎」

「もちろんぜんぶ断ってるよ! 女遊び怖いもん! 最終的にはスクープ誌に『大人気カップルチャンネル彼氏役、コロナ禍の夜遊び』とか『"夜の"はぴりたん、下半身もはぴはぴ!』とか書かれちゃうんだぞ!」

「へー」


 気のない返事に顔をあげると、後輩はコウを見もせず、スマホアプリで出前を追加していた。


「こら! ちゃんと僕のつまんねえ絡み酒に付き合え!」

「自覚があるなら絡まないでほしいス」


 後輩はからあげを三連打して、巨大なため息を床に落っことした。


「つーか、ビジネスカップルだって公言してるんスから、夜遊びしたって浮気にゃならんスよね。そもそも付き合ってないんスから。開き直って女遊びすりゃいいのに」

「公表してるのと、誠実であるのは別の問題だよ。一回でもそういう不埒なそぶりを見せたらアウト。コンプライアンスってのがあるんだよ」

「ふーん。大変なんスね、カップルチャンネルも」

「そうなんだよ! 企画も撮影も編集も投稿も普段のふるまいも、ぜんぶ大変なんだよ!」

「苦行に苦行を重ねた上に、ちょっとした火遊びもできないなんて、損してるスね。ちょっと美人の女の子に言い寄られても我慢しなきゃなんでしょ?」


 コウは真顔になった。


「それがさ。なんか、ほかの女子に話しかけられても、アキカさんの顔が浮かんで、あんまりときめかなくなったんだよね。なに言われても『別に……』って感じになっちゃう」

「顔面最強女子が基準の恋愛観、普通に生きづらそうスね」

「顔がいいだけじゃないんだよ。優しいし、ユーモアもあるし、頭もいい。趣味が読書と映画鑑賞で、将来のために株式投資の勉強もしてる……努力家で、真面目で、一生懸命なところがすごく魅力的なんだ」

「ガチ恋じゃないスか」


 後輩は半目でまぜそばを三連打した。


「そんなに好きなら、いっそコクればよくないスか」

「それはダメだ!」


 コウは力強く断言する。


「なんでスか」

「もし断られたら、ぎくしゃくしちゃうだろ。今までみたいに動画が撮れなくなる……ぜったい気まずい!」

「あ、断られる前提なんスね」

「そりゃそうだろ! アキカさんが僕みたいな顔と金しかない中身空っぽ生命体と付き合うはずない!」

「めんどくせーな、この先輩」

「よしんば付き合えたとしても、プライベートの僕を見せたら、ぜったい失望される! そして、最終的には黒地に白文字で『ご報告』サムネの動画をアップすることになるんだ!」

「……お、この店、デザートもあるスね。杏仁豆腐も買っちゃお」

「でも、告白しなければビジネスカップルではいられるわけ。だから告白はしない。前進を試みなければ後退もしない。これが僕なりのクレバーな結論。どう?」


 後輩は一瞬だけ目をあげて、


「へたれ」


 端的に呟いた。


「うるさいな! へたれなのは自覚してるよ!」

「ま、いいんじゃないスか。それが先輩の結論なら、告白しないでも。俺もう知らねス」

「冷たい後輩だ」


 コウは新しい缶を手に取って、側面についた水滴を袖で拭う。


「あとさ、最近なんか、距離近い企画多くてさ。今日撮ったお菓子食べる動画とか、お互いに『あーん』で食べさせあいっこだぞ。勢いで『好きです』って叫びそうになったわ」

「いいじゃないスか」

「いいよ! 最高だよ! だけどやばいんだよ。顔近いし、いい匂いするし、声もかわいいし、どきどきしすぎて、もういつポロって告白しちゃうかわかんない」

「アイスまで頼むのは、さすがに食いすぎスかね……? アーでもなー、期間限定だしなー」

「……きみ、さては僕の話に興味がないな?」

「実はずっと興味ないス」





 同時刻、さいたな――田中アキカは、居酒屋の個室にいた。

 個室内には女友達がひとりいるだけ。

 女子大生ふたりで来るには、ややお高めの店ではあるが……最近は動画で顔も知られてきたため、仕方なくセキュリティのしっかりした店を利用している。

 すでに数杯は飲み乾した。


(うひー。飲みすぎかもしれん。)


 酒は好きだが、強いわけではない。

 真っ赤な顔でグラスのカクテルを揺らし、正面に座る女友達に言う。


「はぴりたんしゅき♥ ぜったい結婚しゅる……♥」


 すごく甘い声が出た。

 自分でもドン引きするくらい甘い声が喉から飛び出た。


(でもでもっ♥ しゅきなんだもんっ♥)


 脳内で自己正当化していると、机を挟んで対面に座る友達が半目になった。


「アキカ、アンタ酔うとダルくなるんだけど、自覚ある?」

「ありゅ」

「そう。じゃあ帰るわ」

「まあまあ、少しくらい我慢しなさいって」

「我慢させてる側が言うな」


 つーかさ、と友達は溜息を吐いた。


「そんなに好きなら、さっさと告白すればいいじゃん。アンタの顔面ならどんな男もワンパンでしょ」

「それはダメ!」

「なんで?」


 アキカは指で机をつついて、顔をうつむけた。


「……わたしたち、ビジネスカップルだもん。断られたらぎくしゃくして仕事に支障が出ちゃうし、よしんば告白がうまくいったとしても、最終的には黒地に白文字で『ご報告』動画をあげる羽目になっちゃう」

「付き合う前から破局前提で語るなよ」


 ばっ、と顔をあげる。


「だって、はぴりたんだよ!? 世界一かっこカワイイはぴりたんだよ!? 努力家で、将来の夢もあって、やさしくて、思いやりもあって……最高の男の子だもん。顔が世界一いいだけのわたしなんかじゃ、釣り合わないよ」

「顔に関して自信がありすぎだろ。なんだこいつ」

「顔がどれだけよくても、中身は酒飲んでウザ絡みするような女なんだよ!? 本性を知られたらフラれるに決まってる!」

「ウザ絡みをやめるところから性格を改善していくってのはどう?」


 友達の提言は無視して、カクテルをぐいっと飲み乾す。

 卓上のタブレット端末で次のカクテルを頼みつつ、次の言葉を紡ぐ。


「それに……ほら。告白しなければ、ビジネスカップルではいられるじゃん?」

「そうね」

「事実上の夫婦じゃん?」

「事実上の他人だね。ビジネスって単語の意味知ってる?」

「もはや入籍しているといっても過言ではない関係なわけじゃん?」

「過言も過言だわ。酔いを覚ませアホ」


 はあ、と溜息を吐いて、カクテルのついでにおつまみも追加する。

 高級なチーズのセットには目もくれず、フライドポテトの画像をタップ。

 ……トレーナーさんにはバレないようにしなければ。


「あーあ。マネさんが『奥手なオタク男子の相方襲ってみた』みたいな企画を出してくれたら、話は簡単なんだけどなぁ」

「出してくれるわけないでしょ。即アカウントBANでしょ。コンプライアンス最悪でしょ」

「『既成事実作ってみた』とかさ」

「次回動画を『刑務所入ってみた』をしたいなら、ご自由にどうぞ」


 アキカは机に頬を付けて、唇を尖らせた。

 指先で机に落ちた水滴をつつく。


「冗談だよ、もちろん。そんなことできる覚悟があるなら、とっくに告白できてるって」

「へたれ」

「うぐっ」


 正論が胸に突き刺さった。

 当分は机の上から起き上がれそうにないアキカだ。


「ねえアンタ、倒れてないでさ。低温調理ステーキとカプレーゼと自然菜園のサラダも頼んどいてくんない? 話聞くだけでストレスたまるからドカ食いしたい気分」


 うめきながら、言われた通りのメニューをタップ。

 追加が来るのを待ちながら、ぽつりとつぶやく。


「ていうか、ホントにいつまで我慢できるかわかんない。ふいに『しゅき♥』って言いそうになる」

「へえ。へたれのくせに」

「そうなの。へたれなのに。最近さ、なんか距離の近い企画多いんだよね。今日なんて『あーん』だよ。『僕を食・べ・て♥』って意味かと思って、我慢できずに襲い掛かりそうになったわ」

「ああ、そう。ムショに入ったら教えてくれよな、獄中に手紙は送るから」





「じゃ、愛してるゲーム開始! 先攻はさいたな! どうぞ!」

「愛してる」

「愛してる」

「……愛してる」

「んんッ、あ、あいし……」

「はい、はぴの負けー!」

「いやいや! さいたなだって、ちょっと言いよどんでたじゃん!」

「え? なにそれ。証拠ある?」

「これ撮影だけど。映像検証する?」

「Fワード連呼してお蔵入りにしてやろうか」

「やめて!?」



 今日も、たなはぴチャンネルは撮影をおこなっていた。

 息の合った様子で、ラブラブカップルを演じている。


(ああ……いいわねぇ、やっぱり。)


 撮影の様子を見守りながら、マネージャーは「んふふ」と笑った。


(顔面クソ強いのに、ふたりそろって初心なのよねぇ。『自分ら、ビジネスカップルですけど?』みたいな態度で、自分たちだけは恋心を隠せてると思ってる感じ……推せる!)


 ぎらり、と眼鏡の奥の瞳を輝かせる。


(次はどんな企画やらせよっかなー。そうだ、プライベートプール付きホテルの紹介案件来てたな。そろそろ旅行解禁しそうなご時世だし。んで、プールで水着姿のふたりをくっつけさせたり……んッふ、はかどるわー! やっぱりたなはぴしか勝たんッ!)


 最近、事務所から斡旋される案件企画に距離の近いものが多い理由は、マネージャーの独断と偏見によるものなのだが……。

 そのことに二人が気づくのは、ちょっとかなり、だいぶ先の話である。




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― 新着の感想 ―
[良い点] はよくっつけぇ
[一言] すごくいいです! じれじれ度が半端ない! 友人達もいいキャラしてて連載希望です!
[一言] これめっちゃ面白かったです!連載して欲しいです(*´ω`*)
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