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 とある時代、国王を頂点として、細かな階級社会が連綿と続く大きな国があった。


 前任の国王の崩御によって政策が大きく変わると、大国の誇りとは、領土を拡張することであると断じるように、小さな隣国に対して圧力を掛け始め、やがて自由で安穏な暮らしすら妬むようになり、ついには戦を仕掛けるようになっていった――



大国の名は、デュヴァール。

そんな国の貧民街の一角に、彼は生まれ落ちた。



ヴィスカと名付けられた男の子は、貧しくはあったが、正しい愛情を注ごうと励む両親によって育てられていった。


痩せた身体に鞭打って、痩せた畑を耕して、生った貧相な野菜を収穫すると、父親は農場主の屋敷へと足を運んで穀物類と交換してもらったり、市場へと卸して小銭を稼ぎ、衣服や家屋の修繕費に充てるという生活を営んでいた。



貧困街。

当然のように、悪事への誘いはあった。


しかし、点数稼ぎに躍起になる憲兵達に捕まれば、生活は破綻する――


そんな危ない橋を渡るくらいなら、貧しかろうが、愛する妻とヴィスカと共にある人生を歩む――


周囲から、意気地なしと揶揄されようが、ヴィスカの父は、それを矜持として生きる事を選んだ――




ヴィスカが3つの歳を数えた春の日、父は戦場へと送られた。


抗う事は出来ない。


しかし、武勲を上げる事が出来れば、士官の道がある。

そうでなくとも、戻った際には幾ばくかの報奨が手に届く――


愛する妻には、そんな儚い希望と現実を告げて、出征をしていった――




その年の夏。


半分以下になった痩せた畑の上に立ち、ヴィスカは鍬を持つ母の隣で、エンドウの種を蒔いていた――



突き刺すような陽射しの中で、白い華奢な腕が鍬を振る…


ひと休み。

破れた皮膚から生まれる赤が滲む両手を、柄の先端に置いて細い身体を支えると、母はふっと黒い平屋が並ぶ向こう側…遠くに浮かんだ真っ白なお城へと目をやった――


「……」


そこでの生活は、想像すらできない。

少女の頃、真っ白な衣服に憧れた事もあった筈だが、それすら夢だったのではないかと心は語る…


身分の違い…

夫が戦場へと向かう隊列すら、見送ることは許されなかった――




秋になる。

厳しい冬を越えるため、母は一つの秘密を作った。


収穫した野菜を麻布で包み、農場主の元へ往く。

息子には、家へ一人で戻るようにと言い付けて――


「遅いなあ」


ヴィスカは独り、母が戻るのを待った。


オレンジの光が家屋の隙間から注ぐ頃、息を切らした母が白いパンを手にして戻ってきた。


その日のスープは彩りが違って、野菜は自分たちの畑で採るものよりも大きかったし、滅多に入る事の無い塩漬け肉が入れられていた。


「美味しいね」


高い声に、土の匂いの消えた手が、笑顔の頭を優しく撫でるのだった――



その夜、母は息子の小さな頭を両手で抱えると、胸へと埋めた。


腕にぽつと零れた涙の訳は、ヴィスカには分からなかったが、小さな両腕を、母の背中へと回すのだった――

お読みいただき、ありがとうございました。

ラスト、涙の訳は具体的な文言を入れなくても分かるよね? 入れなきゃわかんないか?

随分と悩みました。

ご感想ありましたら、よろしくお願いいたします。

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