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第8話 さようなら義妹

 食事を終え、食堂を出るとアンリエッタがわたくしを呼び出した。暗い庭に出るとアンリエッタは背を向けたまま言った。


「ねぇ、フィセル」

「な、なんでしょう」

「ちょっとこっち来て、見せたいものがあるの」

「見せたい、もの?」


 アンリエッタの背後にいくと、突然くるっとこちらを向いてナイフを向けてきた。鋭い刃がわたくしの心臓を目掛けてくる。びっくりしてヨロけて何とかナイフは避けられた。


「……ちっ、外したわね」

「な、何をするの!!」

「食事中に盗んだナイフでアンタを殺そうと思ったの」


「殺そうとって……そこまでわたくしが邪魔ですか!?」


「ええ、邪魔よ。もう死んでちょうだい」


「意味が分かりません! なんでそんなにわたくしを憎むんですか!」


「憎い? 違うわ。単純にフィセル、あんたが生理的に受け付けないの。気持ち悪いの。だから、死んで欲しい!!」



 ナイフを乱暴に振り回すアンリエッタ。ブンッとナイフがわたくしの頬を掠める。もうこの子に話は通じない。仲良くなるなんて不可能だ。



 逃げようとすると、髪を掴まれて押し倒された。



「――きゃっ」

「捕まえた、お間抜けさん!!」



 アンリエッタは、血走った眼でわたくしを見下す。息も乱れ、その顔は悪魔のようだった。どうして、こんな事に……。



「わたくしは、幸せを掴んではいけないの……?」

「あんたに幸せになる資格なんてない」

「どうして」

「そういう運命だからよ。だからね、アンタにエドワード様が振り向くこともないし、好きになる事も愛し合う事もない。だって、今すぐ死んじゃうんだからね……!」


 ナイフをわたくしの胸元に突き立て、トドメを刺そうとする。……いやだ、せっかくここまで生き延びたのに……死にたくない。誰か…………助けて。



「……っ」


「泣いても無駄。死の運命からは逃れられないのよ、フィセル。私はあなたを殺したい……」

「……生きたい。わたくしは生きたいです……」


「ダメよ。神が許しても、この私が許さないもの。さようなら」



 銀色のナイフが押し込まれ……




 ――ようとした、その瞬間(とき)




 ナイフは宙を舞ってどこかへ落ちていた。

 いつの間にか『槍』が通り過ぎていて……それがナイフを弾いたようだった。あの赤い槍って……まさか。



「……アンリエッタ。これはどういう事だ」

「……に、兄さん。こ、これは……その、遊んでいただけよ」



 現場を目撃され、困惑するアンリエッタ。誤魔化すけど、下手な嘘ね。



「遊んでいた? ふざけるな、アンリエッタ。お前は、フィセルを殺そうとしていたよな。この目でしかと見た」


「そ、それは……だって、この女が悪いのよ!!」

「もういい。お前は義理の妹だったが……たった今より縁を切る。この領地から出て行ってもらう。せめてもの情けだ、馬くらいはくれてやるから帝国へ戻れ」


「…………ぐっ! に、兄さん! それはないでしょう!!」


「決定を覆すつもりはない。お前はもう他人だ。僕の目の前から消えてくれ、アンリエッタ」


「……ま、待って! ごめんなさい! 謝るから……」

「フィセルを殺そうとしたお前を信じられない」

「ち、違う。手が滑っただけで……」


「お前を義理の妹に迎えたのがそもそもの間違いだった。戦災孤児と偽って我が資産を狙って……イーグル伯爵によろしく伝えてくれ。お前の妹は間抜けだった――と」



「くぅぅぅ……くあぁぁぁあぁッッ!!」



 発狂するアンリエッタは、そんな悲鳴をあげて果樹園の方へ走り出した。こんな夜にそんな方へ行ったら危ない。でも、もう二度と戻って来ないで欲しい。



「行ってしまいましたね、アンリエッタ」

「正直言うと共和国へ監視に行った時に既に調べはついていた。だが、あえて様子を見ていたのだが……辛い思いをさせてしまったね、フィセル」



「そうだったのですね。いえ、いいんです。わたくしも彼女の本性が知れましたから。そういう事だったとは……エドワード様も苦労なされているんですね」


「ああ、よく知らない女性が屋敷にやってくるんだ。アンリエッタもその内のひとりだったけど、イーグル伯爵という付き合いある男の妹だったからね。当時、アンリエッタは喧嘩別れして家出したと言っていたが……それは嘘だった」



 エドワード様は、残念そうに肩を落とす。

 けれど、アンリエッタはエドワード様を騙していた。それに、わたくしを殺そうとした。これは立派な殺人未遂。彼女のした行為は許されない。



「エドワード様、元気を出してください」

「励ましてくれてありがとう、フィセル。そうだな、気持ちの切り替えにまだ時間は掛かるけど、でも嬉しいよ」

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