第7話 共和国半壊
期待と不安が鬩ぎ合う中、アドニスくんの案内で部屋に通された。広くて快適な空間。豪華な机と椅子。本棚まであって本がたくさん。広々としたベッドがふかふかで気持ちよさそう。
「ここがわたくしの部屋?」
「そうですよ~。しかも二階ですからね、眺めもいいです。もう夜なので今なら満天の星空が見れますね」
アドニスくんの言う通り、闇には宝石のようにキラキラ光る星々が。共和国と違って闇が深いから、素晴らしい眺望だった。こんな贅沢でいいのかな。
「ありがとう、アドニスくん」
「いえ、お礼ならエドワード様に……エドワード様!」
いつの間にか本人がいた。
気配がなかったから、わたくしもちょっとビックリした。
「やあ、フィセル。部屋はどうかな」
「最高です。こんな空間を独り占めしていいんですか?」
「君は大切な客人だからね、構わない」
「嬉しいです。ありがとうございます」
「ああ。気に入って貰えたところで食事にしよう。大切な話もあるからね」
ついて来てと言われ、わたくしはエドワード様についていく。アドニスくんも一緒に歩いていくけど、少し険しい顔をしていた。……何かあったのかな。
食堂につくと、既にアンリエッタの姿も。
わたくしの方を一瞬だけ見て視線を外す。
……今はそっとしておくしかない。
「フィセルは僕の隣に」
ぴくっとアンリエッタの眉が吊り上がる。
そんな睨まないで欲しいのだけど……。
「兄さん、なぜその女を贔屓するの!!」
「どうした、アンリエッタ。今日はいつになく機嫌が悪いな」
「だから、その女!」
「フィセルか。何が問題なんだ」
「共和国の人間よ。一緒に食事だなんて……」
「これは“辺境伯”としての命令だ」
「…………うぐっ」
そう強い口調で言われ、口を噤むアンリエッタ。悔しそうに唇を噛み、もっとわたくしを睨む。も~…ヤメテ。お願いだからッ。
まるでその祈りが届いたかのように、エドワード様はズバズバ言い始めた。
「お前は他人に強く当たりすぎだ。アドニスがやって来た時でさえ、お前は散々やったな。もう次は無いと言ったはず。仲良くやるんだ。いいな、アンリエッタ」
「…………分かりました」
ちょっ……アドニスくんも同じ目に。アンリエッタは、とにかく兄妹の仲を邪魔されたくないのね。……あ、もしかしてエドワード様が好き――とか。そうでなければ、こんな嫌がらせはしてこないはず。
でも、わたくしだってエドワード様の事が……まだちょっと分からないけど、でも好き。好きよ。気持ちは負けない……と、思う。
対抗心を燃やしつついると、手を鳴らすエドワード様。
「分かればいい。では、話を続ける」
「エドワード様、その話とは……?」
「フィセル、君に関係がある」
「プロセルピナ共和国ですか……」
「そうだ。その『プロセルピナ共和国』が先ほどのモンスターの大襲来によって半壊した。これは確定情報だ」
うそ……半壊って、あの広大な国の半分がやられちゃったって事なの……。それを聞いて、わたくしはゾッとしたし、青ざめた。
「やっぱり守り切れなかったんですね」
「そのようだ。ウィリアム将軍は、わざわざ優秀な『賢者』や『シャーマン』、『呪術師』まで掻き集めチームを結成したらしいが、ほぼ全滅したようだ」
「そ、そんな……モンスターはそれほど脅威だったんですね」
「皮肉にも、フィセルの力が“本物”だったと証明された。今や共和国は、大聖女を失って大混乱。大慌てで君を探している」
わたくしの両親を殺し、国から追い出し、その結果たった一日で半壊して……泣きつくようにわたくしを探しているとか。聖女としてこんな風には思いたくないけど……でも、いい気味ね。
少し。
ほんの少しだけれど、胸がスッとした。
もちろん、戻って来いとか言われても絶対に戻らない。故郷を追い出され、全てを失った。なら、わたくしは自由に生きる。そう決めた。だから……。