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第3話 もう共和国には戻らない

 あれほど豪雨だった雨雲も、今や薄れつつある。木々の隙間からは青い空が見えた。


 共和国を監視していたという、ヒューズ辺境伯に救ってもらい、命拾いしたけれど――身も心もズタボロだ。生きている意味なんて……ない。そう思った。


 でも、ふと……あの時の両親の言葉が蘇った。父様が『お前は生きるんだぞ』と言った。母様も『幸せになってね』と最期に言い残してくれた。


 なら、生きなきゃ。


 無念に散った父様と母様の為にも、足掻かなきゃ……これ以上、あのウィリアム将軍の思い通りにさせるわけにはいかない。



「辺境伯様……あの、わたくしはもう『プロセルピナ共和国』には戻りたくありません。だから……」


「分かっている。この国は古くから『魔女』を嫌う国。その昔、ある魔女(・・・・)によって滅ぼされる寸前までいったとか。そのせいで共和国には“魔法使い”すらも存在しないようだ」


「そんな理由があったのですね……」


「だから君のような神聖な力を持つ女性を――いわゆる『聖女』を使って国を守護していたようだね。でも、そんな崇高な存在すらも疎ましいと思うようになったらしい。愚かな連中だ」


「……どうして」

「それを僕は調べに来たんだけどね。君と出逢う事になるとは……これも運命かな」



 柔らかに微笑む辺境伯。

 人の良さが滲みに出ている。

 この人はきっと良い人だと思った。



「……わたくしはどうすれば……」

「まずは服を乾かそうか」


 右手を向けてくるヒューズ辺境伯は魔力を解放する。春のような暖かな風が吹いてくると、びしょ濡れだった全身が一瞬で乾いた。


「わぁ……これはなんです?」

「職業柄、僕はよく服を汚してしまうんだ。だから服を乾かす魔法を習得しているんだよ」


 あまりに不思議な説明に、わたくしは首を傾げる。職業柄って……いったい。彼は『辺境伯』だって名乗っていた。貴族であるから職業なんて言葉が出るのはちょっと疑問だった。


「教えて戴いてもいいですか」

「百聞は一見に如かず。それは見てからのお楽しみにしておこう。今は森を抜ける方が先決。この先に仲間が待っているんだ。あまり待たせるのもね」


「えっ、そうだったんですか。ごめんなさい」

「謝る必要はない。さあ、行こうか」



 ゆっくりと歩き出すヒューズ辺境伯。

 その背についていく。



 薄暗い森の中をひたすら歩き続ける。彼はたまに、わたくしの体調を気遣ってくれた。そうして歩き続け……ようやく広い草原に出た。



「一度も迷わず出られるなんて……」

「共和国には“魔法使い”がいないけど、帝国には当たり前にいるんだ。だから迷わない」



 そう苦笑して何かを見せてくる。

 あれは『ペンダント』。青々と光る宝石・ラピスラズリ。それは教会でもよく見かけた覚えがあった。



「それ……」

「うん。このペンダント自体は『ジェミニ』と呼ぶ。双子という意味があるんだけどね。そんな名称のアイテムだから、相手もこのペンダントを持っていればお互いの位置を知れる魔導具というわけなんだよ」



 そっか。だから迷いの森を迷わず出られたんだ。帝国の魔導具だったんだ……。でも、それはわたくしの所属していた教会にもあった物。これは何を意味するの?



「辺境伯様……」



 謎を聞いてみようと思ったら、彼は思い出したかのように手を叩く。



「ああ……! 大事な事を忘れていた。まだ君の名前を聞いていなかった」



 そう言われてみれば自己紹介をしていなかった。



「そうでした。わたくしは元共和国のオフィーリア教会のフィセルです」

「フィセルか。可愛らしくて良い名前だね。僕の事は“エドワード”と呼んでくれると嬉しい。堅苦しいのは好きじゃないから」


「でも……分かりました。エドワード様」

「うん、それでいいよ、フィセル。さあ、あれが馬車だ」



 少し離れた丘に馬車があった。

 そこには退屈そうに待つ人物がいた。

 あの人は……?

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