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第2話 ヒューズ辺境伯

 ロープで手足を縛られ、口も布で塞がれていた。声を上げる事も叶わない。いっそ、死んだ方がマシ。もう、この世界で生きる意味もない。


 馬車に揺られ、共和国の外へ連れ出された。


 外は森。広大な森が広がっていた。

 迷いの森とも称され、一般人は立ち寄らない場所。一度入ると帰ってこれないという、危険な場所。さらに危険なモンスターも沢山いるという。


 絶望しかない森。



「…………寒い」



 今のわたくしは、そうつぶやくのが限界だった。




「さあ、着いたぞ。魔女」

「おい、コイツもう死んでるんじゃね?」



 二人の兵がわたくしを見下す。

 抜け殻のようになっていると、彼らはわたくしの体を持ち上げ――地面へ捨てた。……痛い。痛いけど、心の方がもっと痛い。



「せっかく美人なのになぁ。あ~あ、もったいね」

「将軍は何考えてんだかなぁ……。魔女認定とか今時どーなのよ」

「さあ? ウィリアム将軍は、古き良き時代を愛するって聞くしな」

「あ~、納得。だから“魔女狩り”かね。悪趣味すぎ~」

「ああ、将軍はそういう(・・・・)家系だからな」



 彼らはそう雑談を交え、去って行く。

 わたくしはひとりぼっち。


 ……寒い、寒い。何もない。全部失った。



「父様……母様……どうして……あぁぁ……」



 声にならない声で咽び泣く。

 ただただ涙が零れ落ちてしまう。


 気づけば、パラパラと小雨が降ってきた。それは次第に大雨になって……雷さえも鳴った。



 このまま消えてしまいたい。

 誰か、わたくしを殺して……。



 そんな願いすらも叶わない。



 将軍の言った通り、わたくしは生き地獄を今感じている。……あぁ、そっか。ここに地獄はあったんだ。



『――――グゥゥゥ』



 不運は続く。

 この大雨の中、お腹を空かせたウルフが姿を現していた。口元はヨダレに塗れ、鋭い目つきでわたくしの様子を伺っていた。



 ……そう、来てくれたのね。

 もういい、その牙でいっそわたくしの喉元を引き裂いて欲しい。それで楽になれる――。目をそっと閉じ、その瞬間(とき)をまった。



 ――そして。



『……きゃぅぅぅんっ!!』



 複数のウルフが宙を舞い、地面に叩きつけられていた。あまりに突然の事で、わたくしは目を丸くする。……いったい、何が起きたの?



「――――てやぁぁッ!!!」



 ギンッと鈍い音が鼓膜を刺激する。

 物凄いスピードの物体がウルフ達を両断し、肉片に変えていた。なんて鮮烈で機敏な動き。



 ……あの武器は『槍』?



 紅蓮の槍がウルフの肉体を貫通し、あっと言う間に倒してしまった。その槍を手に持つ『赤毛』の男性。これまた美しいルビーのような瞳。けれど左目は眼帯だった。隻眼なのかな。


 細身の高身長の彼は、わたくしの方へ歩み寄ってくるとロープを解いてくれた。



「あの……貴方は?」

「僕は、コーンフォース帝国の“ヒューズ辺境伯”エドワードだ。共和国を監視していてね、それで偶然、君を発見した」


 落ち着いた口調で彼は言った。


「エドワード様……帝国の方なのですね」

「ああ。それにしても、君はどうして捨てられたんだい?」

「…………」

「辛いことがあったんだね。君の表情を見れば分かる。でも、今は無理に話さなくていいさ。なぁに大丈夫、この僕が守ってあげるよ」


「…………ありがとう、ございます」



 あたたかい言葉に、わたくしは泣いた。ぼろぼろ泣いた。……こんな大魔女とか言われたわたくしにも……優しくしてくれる人がいるんだ。

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