Battle 1
あの日から、どう死ぬのが良いか模索する日々が続いた。
Aにしつこく止められたからこの前は死ぬのを辞めたわけであって、決して死ぬのを辞めた訳では無い。
でも、もしまた同じ場所で死のうとして、本当に仮に、またAと遭遇して止められたら最悪だ。
だから場所を変えようと思ったのだ。
僕は今、大学から家への帰途へついている。
そこでふと、いつも横を通っている大きい公園が目に止まった。
そういえばそこには大きな池がある。
確か水深2mは優に超えていると聞いたことがある。
これは使えるんじゃないか?
僕は実際に池を見に行った。
人は脆い。
たった水深2mと思っても、時としてそれは人の脅威になりうる。
僕の身長は170cm。
少なくとも30cmは深い。
仮にもこれは最低ラインである。
もっと深く続いているかもしれない。
ここで死のう。
ここはよく人が来る公園だから、明け方に死ねば、1度体のガスが抜け沈んだ後、腐敗が進む時に発生するガスでもう1度浮き上がった時に見つけられる可能性が高い。
また、ここは海ではなく池で、塩分濃度も低いと聞いたことがある。
だから運良くすぐに発見されれば、体の状態もさほど悪くはならないだろうと思う。
まあ最悪、近くに身分証を置いておけば、身元はわかるだろう。
溺死は苦しいと聞くが、実際苦しいのは体から酸素が無くなるまでの数分だろう。
最初とだいぶ予定は狂ってしまったが、まあまだ許容範囲だ。
ほんの少し、死ぬのが先延ばしになっただけだから。
そうと決まればすぐに実行に移したい。
善は急げっていうだろ?
まあ善かどうかは分からないけれど。(笑)
少なくとも僕にとっては善だから。
僕は明日の明朝、この池で死のうと決めた。
───翌朝
午前5時00分
僕は昨日ここで死のうと決めた池に来ていた。
前回はAに止められてしまったが、やっと今日、死ぬ事が出来る。
このつまらない世界から去ることが出来る。
「ふっ」
笑いがこぼれてくる。
僕は池から十分に距離を取り、助走距離を確保した。
昨日、池で死のうと決めてから、豪快に飛び込んで死んでやろうと決めたのだ。
心の中でカウントダウンをした。
3、2、1⋯⋯!!
僕は一気に走り出した。
頬を掠める風がとても気持ちいい。
死ぬ前にこんなに清々しい気持ちになれるなんて、なんて素晴らしいんだ!!
池まであと10数メートル。
その時だった。
視界の先にある池に、なにか違和感を覚える。
よく見えないが、何も無いのに池が妙に騒がしい。
一瞬、人の手が見えた気がした。
⋯⋯は?
先程までの清々しさが、嘘のように消えていく。
走るスピードが遅くなる。
「⋯⋯なんで、お前がここにいるんだよ」
池にいたのは、あの時のAだった。
しかも何故か溺れている。
『た、たすけて。⋯⋯はっ。たすけっ』
⋯⋯ほうっておいてもいいかな?
と一瞬思ったが、さすがにそれはまずいと思い直した。
沈んでいくAに手を差し伸べる。
Aは僕の手を掴み、必死で陸地まで登ってくる。
『はあっはあっ。⋯⋯助かったー』
池の縁に死にそうになって横たわるAと、それを傍観する僕。
この状況は一体なんだ?
全然意味がわからない。
「なんで、いるんだよ。しかも、溺れてるし」
Aは呼吸を整えてから僕に視線を合わせて口を開いた。
『お前、ここで死ぬつもりだったろ?昨日ここでずっと池眺めてたから。だから池の中で待ち伏せしてやろうと思ったら自分が泳げないの忘れてた』
⋯⋯お前は俺のストーカーか!?
背筋がぞっとした。
「なんでそんなこと知ってんの。止めて欲しいなんて頼んでないし。これ以上干渉しないでよ。せっかく、気持ち良く逝けると思ったのに。お前のせいで2度も最悪な気分だよ」
そう言うとまたAはへらへらと笑った。
『俺が、お前に死んで欲しくないから止めただけだよ。これは俺のエゴだからな』
にっこりと満足気に笑うA。
すっごいむかつく。
なに、なんかかっこいい感じのセリフ言っちゃってんの?
こっちは迷惑を被ってるのに。
もう、今日は死ぬ気が無くなった。
こんなに気分が悪い中死んでも、それは僕が望む死では無い。
僕はAに背を向けた。
また、後ろからAの声が聞こえる。
『またな』
振り返ると、まだ横たわったまま、Aがこちらに手を振っていた。
それを無視して僕は帰った。
(こっちはもう一生会いたくねーよ)
そう、心の中で返事をして。
これってヒューマンドラマで合ってますかね?笑
分からなくて1番ぽいの選んだんですけど、合ってなかったら教えてください。笑