Battle 5 (2)
午後8時30分
僕は実行時刻を午後11時と決めた。
あと、2時間30分。
最後の晩餐は、普通の牛丼にした。
この前ひとりで変な論争を繰り広げながら、つゆだく牛丼を頬張っていたら見事にAに阻止された。
だからなんとなく、つゆだく牛丼にすると変なフラグがたってしまいそうで怖かったので普通の牛丼にしたのだ。
Aのせいで最後の晩餐にまで気にしないといけないのは正直うざい。
というか普通にAがうざい。
何も意図を明かされずに、僕は計画を何度も何度も邪魔されているのだ。
うざいと思わない方がおかしいだろう。
もし何も負の感情が湧かないという人は自分に感情があるか疑った方が良いと思う。
そんなことを考えながら僕は無心で(矛盾しているとか言うな)、牛丼を頬張った。
最後の晩餐を終え、風呂に入り洗濯物を干し、死ぬ準備を整えていく。
ようやく死ねる、!!
なんだかこのセリフ、毎回思ってる気がして変なフラグが立たないか不安だ。笑
でも今回は全て家で作業してたし、ばれてる心配はない!はずだ!!
うん、きっと大丈夫だ。
そしてようやく準備を終えたところで、ちょうど11時頃になった。
よし、決行だ!
ワイヤーは既に床にピンと張ってあるので、あとはもう自分でそのワイヤーに引っかかるだけだ。
僕は深く深呼吸をした。
あーなんか緊張する。(笑)
よく考えたら自分で引っかかるのはなんか滑稽だ。
でも普通にわくわくする。
矢が刺さるのってどんな感じなんだろう。
八本も矢を刺されたのに倒れなかったという弁慶の話があるが、本当にそんなことが可能なのだろうか。
僕に刺さる矢は1本だが、果たして立っていられるのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は足を進めた。
あと2歩ほどでワイヤーに引っかかる。
Aの気配はしない。
ようやく、死ねるんだ、!!
ありがとう、そしてさようなら。
この世界。
僕はぎゅっと目を瞑り、ワイヤーに足をひっかけた。
カチッという音と共に矢が飛んでくる。
たった数秒、その間に僕は今までの人生を思い返していた。
孤児院の目の前に捨てられたが、幼少期はその施設で割と楽しく過ごせていた。
僕にとっては普通の生活、普通の成績、普通の運動能力。
特に何かに秀でていたわけでもなく、平凡な僕の人生。
ああ、これが走馬灯というやつか。
時の流れが遅く感じる。
背中に何かが当たる感触があった。
僕は満面の笑みを浮かべ、その場に倒れた。