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戦いの始まり

主人公である"僕"はありとあらゆる方法で自殺を企てます。

極度の死にたがりです。

苦手な方はUターンお願いします。


僕は今、とある自殺スポットに来ている。

なぜなら、今日、死ぬからだ。



僕には親も恋人も友達もいない。

僕はいわゆる孤児で、施設で暮らしていた。

0歳の時、施設の前に捨てられていたそうだ。

今は大学生で、一人暮らしをしている。

故に、残された人の事を考えなくてもいい。



なぜ死ぬのか、そしてどうしてこんなに平然としているのか気になっていることだろう。

気になっていなくてもとりあえず聞いて欲しい。



別に虐められていたとかそんなことはない。


ただただ、この世がつまらない、それだけだ。


毎日、起きて学校に行き講義を聞き、ご飯を食べ風呂に入り、寝る。

その繰り返し。


とうとう僕はそこに生きている意義を見いだせなくなったのだ。


それから単純に、死に興味があるというのも理由の1つだ。

人は死ぬと魂がどこかへ行くとか生まれ変わるとかよく聞くが、それは本当なのか。


はたして人は死後どうなるのか、それが知りたい。


死んだらもう終わりだとか言われるかもしれないが、僕はこの世に対して未練も何も無い。

だから死んで終わりならそれでもいい。


きっと僕はとても変人だと思われてるに違いない。

だが、それもまた、僕にはどうでもいいことだ。



まだお金もあまりない僕には大層な死に方はできない。

それに、他人に迷惑をかけるような死に方もしたくない。


そこで考えに考え抜いた結果、カッターで頸動脈をグサッとして逝く事にした。



だったら自殺スポットなんか来ないで家で死ねるだろ、と思う人もいるかもしれないが、近隣住民から異臭で発見され、見つかった頃にはハエが集って腐っていた、なんて死んでもごめんだ。



まぁ、死ぬんだけど。(笑)



ここは自殺スポットと知れ渡っているため、警察が巡回に来るそうだ。

だから家で死ぬよりも発見されやすい、という魂胆である。



よし、もう死のう。


死ぬのは別に怖くない。

痛いのはきっと一瞬で、すぐに気絶してそのまま死ねるだろうから。



(さようなら、このつまらない世界)



僕はうっすらと微笑み、カッターを自分の首めがけて勢いよく振り下ろした。



その時だった。



何かがこちらに勢いよく飛んできて、僕が手に持っていたカッターを弾いた。


カッターは地面に転がり落ち、その近くに大きめの木の枝が転がっていたので、“飛んできた何か”とはそれだったのだと悟った。


そして僕は反射的に木の枝が飛んできた方を見た。



『おー、スーパーヒット〜』



そこには、初めて見る顔の男性がいた。

この男性を仮にAとする。



「……誰?」



僕は無意識にそう声に出していた。



『たまたま通りかかった人、かな。目の前で血吹き出して死なれると怖えじゃん』



微笑しながらAは言った。


たしかに、人が目の前で死ぬところを目撃したら僕でも一生トラウマになりそうだ。

別に僕は人のトラウマを作りたいわけじゃない。



「じゃあ早くここから去れば」



Aは何か少し悩んでいる様子でこちらを窺っている。


しばらくの間、僕らの間に沈黙が流れた。



『いや、なんか違うじゃんそれ。死ぬって分かってて去る方がよっぽど後味悪いわ』



Aは僕の方に近づいてきた。



『だからさ、今日は死なないでよ』



満面の笑みをこぼしてそう言った。


何を言ってるんだこの人は、と思った。

そして同時にふつふつと怒りが湧いてきた。



「どうして今会ったばかりのあなたに指図されないといけないんですか。今日やっと死ねると思ったのに、邪魔しないでくださいよ。ここで会っただけの僕のことなんかさっさと忘れて早く去ってください。忘れてしまえば後味悪いとか感じないでしょう」



怒りのせいか、するすると言葉が出てきた。


言い終わったあとに思った。

僕がここから去ればいいのだと。

そして、僕はAに背を向けて歩き出した。


だが、Aも何故かついてくる。


走って撒こうとしても、Aもそれに合わせて走る。



あー、もういらいらする。


どうして死なせてくれないんだ?

別にいいじゃないか。

Aに迷惑をかけるわけでもないし。


僕は立ち止まりこの苛立ちをぶつけるべく振り返った。



「どうしてついてくるんだよ。あなたが見えないところで死んであげますって言ってるんだから帰ればいいだろ。今日会ったばかりの他人に情なんてもん微塵もないだろうに」



『いや、でも死ぬでしょ?それはほっとけない』



「そんなのありがた迷惑だ」



これでは死ねないじゃないか。


僕はAを睨みつけ、Aはへらへらと笑っている。


無言の交戦がしばらく続いた。


僕は考えた。

まずはAを帰らすことが先決じゃないか。


とりあえず取り繕った言葉でAを帰らせたあと静かに死のう。



「……はあ、分かった。今日はもう死ぬのやめるから。だから安心して帰りなよ」



僕の言葉を聞いたAはさらに口角を上げた。


いちいち癪に障る。



『どうせ、そうやって言って俺を帰らせた後に死ぬつもりだろう?』



いやそうに決まってるだろ。


Aが後味悪くならないように、そして心置き無く帰れるように、こう言ってあげてるにも関わらず、どうしてAは帰らないんだ?


僕はさらにAを強く睨んだ。


それを全く気にせず、Aは口を開いた。



『なあ、一緒に帰ろうぜ』



僕はそれを無視してAとは反対の方向へもう一度歩き出した。


しかし、やはりAもついてくる。


もう諦めればいいものを、どうしてそこまでしつこくついてくるのだろう。


割と長い間お互いに無言で歩いていたと思う。



……ほんっとにしつこい!!!



このままずっとついてこられたら無駄に体力を消耗し、疲れるだけだ。


もう今日死ぬのは無理だと、悟った。


僕は立ち止まり、Aの方へ振り返る。



「分かった。帰ろう」



僕がそう言うとAはとても満足気に笑った。



『やっと帰る気になったか。このままずっとこんな森の中彷徨い続けられたらどうしようかと思った』



その言葉に僕はふと我に返った。



「……ここどこ?」



『え!?知ってて歩いてたんじゃないのかよ!もしかして俺ら遭難、しちゃった……?』



うわ、まじか。とAは頭を抱えだした。


僕も内心焦っていた。

遭難で死ぬとか笑えない。


空腹と喉の乾きで苦しんで悶えながら死ぬとか全然理想的な死に方ではない。



2人でおろおろとしているとAが開き直った声で言った。



『……よし。今日はもうここから動くのはやめよう。変に動いて怪我でもしたらまずいし。明け方、明るくなってからここから出よう。幸い電波は通ってるみたいだから最悪の場合は119番すれば生きて帰れる』



僕も今はそれが一番いい方法だと思ったので、素直にそれに従うことにした。



「分かった」




───数時間後



ようやく日が登り始めて明るくなってきたので、僕らは携帯のマップを使って街のある方角へ向かって歩いた。


幸いにも、例の自殺スポットからあまり離れていなかったようで、すぐに帰り道がはっきりと分かった。


そして、僕らは無事に森から抜け出し街へ戻ることが出来た。



「じゃあ。もう会うことも無いでしょうけど」



そう言い、僕は足早に自分の家へ帰ろうとした。


歩いていると後ろからAの声が聞こえた。



『死ぬのやめてくれてありがとう』



振り返ると、Aは笑っていた。


その笑みに、最初ほどのムカつきはなくなっていた。


僕は何も言わずに、そのままAに背を向け歩いた。


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