81話 神
シルビアは時を止める力を禁忌と称した。なぜそんなことを言ったのか。それは代償があるからだ。
彼らの存在にいち早く気付いたのは教員のミーニャである
上空に出現した外界と繋がる“窓”に近く、戦闘可能であるほどに余裕があったのは彼女だけであった
「にゃ?」
彼女は直感的に振り向いた。なぜ気付けたかは本人にはわからない。もう少しでも距離が遠くならば気づけなかったであろう。
なぜなら、彼らは魔法の基となるマナを発していなかったのだ。精密機械以上の制御をしているのか、そもそも持っていないのか、それは分からない。不気味極まりない
「吸血鬼とも植物人間とも違うみたいにゃけど、どちらさん?」
ミーニャは彼らに近づいた。高度を合わせてあくまでも対等だと。その態度を持って示した
「今ちょっと立て込んでてね。出来れば後にしてくれると嬉しいのにゃけど」
彼女は武装を解除する。見える様にガーターリングからコアを外し箱にしまった
しかし、彼らは彼女を無視した。まるで存在しないものかの様に視線を学園へと向ける
「にゃ~にしてるのかにゃ~。人の話は口を見てって…え?」
その時彼女に異変が起きた。表情が固まる。
彼女は彼らを前にして取るべき選択を間違えたのだ。具体的には彼女は即座に自身の命を断つべきたった
「ミャーがそんな事するわけにゃいじゃん」
顔色が曇っていく。声色も心なしか焦っていく。逃げようにも体が動かない
「これ、君たちに何の意味があるの…?」
頭を抑え、表情が苦痛に歪む。
「ねぇ、ヤダ、やめて…おねがい。そんなことしたくない」
空中でうずくまる。耳を塞ぎ目を閉じる。魔法で生成した毒液で体を覆う。しかし、効果は無かった
おねがい…
それは本能に対する命令だった。心臓の鼓動を止める事ができないようにソレを拒むことは不可能であった
彼らは認めない。己が創造物に自らへ届く剣があることを
彼らは許さない。己が創造した世界に求めていない物語があることを
己以外の全ては人では無い。故に彼らは冷酷無比な神である
ーーーーー
シルビアとの戦いを終えたリオンはコロシアムの中央へと移動し、バラバラに分解されたシルに応急処置を施していた
「情けでもかけられたか?」
リオンはシルだけが心臓を貫かれていない事実に疑問を呈した。
「うるさい…」
シルはぼそりと苦虫を噛んだような声で呟いた
「お前にもプライドがあったんだな。製作者が良ければそれで…あっ」
話の途中でリオンが空を見上げた。
「いきなりなに?」
「来客対応中のミーニャが落ちてくる。ありゃ精神魔法だな。ちょっとこれであいつらの首切ってくる」
彼はシルビアから奪った剣を持ってその場から消えるようにして移動した
「オッケー、こっちは任せて」
シルは魔法で移動するリオンを見送る。そして、ミーニャの落下地点へと移動を始めた
「オーライ、オーライ。ほっ!」
シルは落下するミーニャを受け止める。それと同時にマナを侵食して精神魔法の治療をした
「ねぇねぇ。治った?」
「うっ…う、あれって私は…グハッ!」
意識を取り戻したミーニャの胸に穴が空いた。だが、それをやったのはシルである
「あっぶなー。治ってないじゃん」
シルは彼女の心臓を抜き取った。彼は彼女の演技を見抜いた。心の中で自らのファインプーを褒め称えた。しかし、彼は精神魔法以外で彼女が敵なる状況を知らなかった。
ただ、偶然だが治せそうな人物に一人心当たりがあった。シルは彼を頼ることにした。
「おい!起きろボク」
シルは透明人間を連れてシルビアの所に移動した
「……」
体の9割が白い物質によって置き換えられて膨れ上がった一見人には見えないシルビアは地面に倒れたまま反応しない
「あれだけ力を使ったんだ。まだ乗っ取って無いとは言わせない」
人間魔法を使用するためにコアを使う。使い方を引き出し、触媒とする。
そして、コアの原材料は魔石と呼ばれるモンスターの心臓である。そこにはそのモンスターの全てが詰まっている。魔法の使い方はもちろん記憶もである
「そんなつもりじゃ無かった…」
シルビアが口を開く。同時に白い物質は意志を持つかのように体の内へと収まっていく。そして、体の倍以上に膨れ上がっていたそれは衣類として形成されたものを除き全て吸収された
「ミーニャが正体不明の精神魔法を受けた。治せ」
「…!それは本当か!?待って、リオン、リオンはどこ!?」
シルビアが飛び上がる。先ほどの無気力な状態とは打って変わってかなり焦っている
「待て、こっちが先だ。こっちは空間ごとお前を破れるんだぞ!」
「分かった。見せてくれ」
彼はミーニャの心臓を渡した。しかし、彼はそれを後悔することになる
「案の定…か」
パリン!
シルビアが心臓を砕いた。念入りにジャリジャリとすり潰すように
「…………は?」
シルは理解ができなかった。自分のことなのに本当に理解できなかった。
ミーニャが死んだ。彼女の心臓は粉々になった。もはや修復のしようがない
「殺せ」
彼はリュウに指示を出す。しかし、ショックを受けていた分、一歩遅かった。
シルビアは上空に飛び去ってしまった。
ーーーーー
「何を驚いている?皮肉か?」
リオンは転移の直後、彼ら全員の首を切っていた。しかし、切ったそばから首がつながたのだ。さらに、自前のナイフで斬りつけたが傷一つつかなかった。
「…」
彼らは斬られた首を不思議そうに確かめている
「…ッ!」
リオンが縮地魔法で咄嗟に回避する。直感で何かを感じた。
空間ごと攻撃してきた?
周囲の空気が入れ替わっていた。その断面は固さを無視した切断が出来ると予想ができた
直感だが予兆はわかる。まだ、負けはしない。だが…
勝つまでの道筋が見えない
「ん?心臓が戻っ、生き返ったのか?何故?…ッ!」
マズイ!
すぐに縮地魔法を使用して離脱しようとしていた。しかし、足が止まる
ーーーー、ん?なぜ俺は逃げようとしていたんだ?そんなこと許されていないのに…
「…ッ!」
リオンの脇腹を衝撃が襲った。ただ、それは攻撃では無かった。ラウドが高速で彼を抱き抱えたためである。
彼はそのまま彼らのうち一体にランスを突き立てる。攻撃は硬い体に弾かれるがその反動を利用して離脱した。
「…問題ないのか!?」
リオンは警戒しラウドの胸元にナイフを当てる。
「それでいい。だが、話は聞け奴らを殺す策がある!」
ラウドは懐から三つのカプセルを取り出した




