79話 生命ではない者
戦いにおいて感情に任せるのは悪手だ。だけど、今だけはなんか行ける気がした
「すぅー…、っ!」
サリアは深く深呼吸をする。丁寧に、丁寧に怒りを動力に変えた。カイザに一瞬視線を送り行動で語る
まずは、カイザ。あなたが変換を使用して他がサポートする。最低限の犠牲で壁を破壊する。確かに合理的で確実でしょう。だけど、
ドゴーーンッ!!
サリアが尻尾に変換を使用して壁を破壊した。それはほとんど爆発音だった
槍使いが片手を失って戦力になるの?タイマーが必要無くなった時点で、リスクの低い手を使うべきでしょう
「「…ッ!」」
風圧がおさまり薄目を開け状況を確認する。すると、そこには粉々になった壁の補修部分と、バランスを崩して地面に倒れたサリアだった
「…ダッサ。けどね、リュー」
これが私だ
醜い姿は隠したかなるのも分かる。見るに耐えないんでしょ。ただ、見て理解なさい、私は失態を醜いと思っていない!
彼女は炎に変換された尻尾をビタンと地面に打ちつける。その姿はまな板の上の鯛に近似していた
「我慢できないから話すけど、サリア 寝起きは機嫌が悪いんだ」
「言葉で語らず伝わると思うな。退がれ」
「おい!お前ら!」
サリアの想い伝わるが、リュートとカイザの行動を改めさせることは叶わなかった。
『変換』とは自らの身体を材料に同様の機能を持つ物質を魔法で生成する技術である
条件は、生成魔法の所持と可能とするだけの技術と知識
メリットは変換箇所の魔法化
デメリットは変換箇所の喪失
彼らはサリアが壁を破壊した後、すぐ目の前の戦いに参加した。
ツギハギだらけの大男かゴーレムの操縦者、敵は一目して分る。大男のほうだ。彼は黒装束こそ着ていないが、背中に生えた触手は自分達を捕らえたものと同じだ。
「スゥー…」
サリアが飛び上がり大きく息を吸い込んだ。彼女のブレスは、声、振動、衝撃、伝達、炎の五つの魔法を組み合わせた高等技術である。この技は一年生としては異常であり、教員のものに匹敵する
だが、敵は教員を狩に来た者である。
「雑魚が。死ね」
実力が違い過ぎた。男はサリアに向かって背中の触手を伸ばした。彼にとっては息を吸って吐く程度の動作ですら隙になり得るのだ。しかし、
ガギン!
触手は見た目にそぐわない鈍い音を立てて防がれる。リュートが岩の大盾を生成し間に入ったのだ。
サリアと大男との間にある力の差。その程度の差を彼の眼に見抜けないわけがない。彼自身は吹き飛ばされたものの見事サリアは守ってみせた。
ドスンッ!
リズが触手の影に隠れていた2本目を力任せに叩き落とした。
彼女は五感の鋭さ以外にも高い反射神経と怪力も持っていた。他にも高い能力を持ちリュート、カイザ、ともに同じ種族であることを疑うほどの高スペックである
ナイス!
サリアが勢いの死んだ触手を両脇でがっしりと掴む
「ザーーーコッ!!」
サリアが通常とは違う半透明のブレスを放った。それは死角の発生を防ぐために炎魔法を抜いてブレスを撃ったためである。
「ミリス!触手を狙え!」
「勝手に省略しないでもらえます?」
カイザが金槌と巨大な裁縫針を水魔法で生成し触手に打ちつける。
少しでも触手を引きつければゴーレムの操縦者が有利になる。さらに、ミリナリスの精神魔法で触手を機能不全に出来るかもしれない。そんな、目的があった
ガギン!
だが、そうはならなかった。針が折れ、針先が弾き飛ばされる。
触手の性質が変化していたのだ。それは帯のように薄くなり、金属のように硬くなく光沢を持った。
「来r…」
バチン!
警告は衝撃波によってかき消された
「…ッ!」
カイザは縦向きの突風が頬を掠めた後、そのにあってはならない物が視界を横切った。
俺の決断のせいだ。道筋を立てて油断をしなければ…違ぇ、後悔は後だ。先のことを…違ぇ、今だ。今についてだ。何やんだったか、決めたはずだ。『前を見ろ!』
「あっ…」
彼は思い出した。こういう時はもう手遅れなんだと。迫る触手はもう避けられないところまで来ていた。
「馬鹿野郎!」
ミリナリスはカイザを蹴り飛ばした。
「ッ…!」
カイザの目の前にミリナリスの足が落ちた。それは地面に落ちて視界から外れることは無い
おい、それはダメだ。俺以外の犠牲なんて到底受け入れられねぇ
「俺が足止めをする」
「それをください」
「お前らは逃げろ」
「耳イカれてます?」
「お前も逃げ…は?手…その足は?」
ミリナリスの切られた足の断面が繋がり先を探す様にうにゃうにゃと蠢いていた。
「はは、化け物か?」
カイザは一周回って冷静になった。目の前のを掴み、彼女に向かって投げた
「は?精神魔法が一切効かない化け物が何を言ってるのです?」
彼女は心底不思議そうに問い返した
「そうだな。ここはそういう奴が多い」
カイザが立ち上がる。
戦線離脱から数秒だが二人が抜けたところで戦況は変わらず一方的だった。部屋の入り口で範囲を狭め触手に対処している
「カイザ!ちょっとこれ持ってて!」
「おう、すぐ行…」
手渡されたのは鳥肌が立つほどマナを貯蔵した盾の魔導具だった
「対物ライフル撃ちたいからタイミングを合わせてズレて」
「は!?」
ズギュン!!
なんか出た。担任教師の切り札並みの火力が出た。しかも、
ジジ、ジジジジ…ビギューーン!!
部屋の外のロボットがビームを発射し、クロスファイアとなった。ちょっと同情しそうになった
すぐさまロボットが部屋の入り口に移動してきた
「君たち!早く乗って!」
コックピットが開き、男が手を差し伸べた。
「今のは何だ!?」
ロボットの操縦者はウィンという5年生だった。研究に没頭するあまり警報を聞き逃したらしい
「魔道具です。あと数回は撃てます」
「一年、金持ち過ぎだろ!どうなってんだ?」
「それ知りたかったら。これくらい仲良くなることね」
サリアがリュートに『変換』された両腕で後ろから抱きつき肩に顎を乗せた。
「いや、隠してないよ?」
リュートは彼女の行動に鬱陶しそうな顔をしながらも、わざわざ払いのける様なことはしなかった
5人がロボットに乗り込んでから戦いは有利に進んだ。魔道具の燃料になる魔石をリュートが大量に保持していたためである。
「もうすぐ地上だ、お前ら脱出の準備をしろ!」
ロボットはドリルで敵の大男ごと地面を掘り進み、地上に飛び出した。
あれ?
「早く…」
脱出口がなかなか開かず急かそうとした。その時に気づいた。他の5人がピクリとも動かなくなっていたのだ




