63話 自然公園真っ向勝負
ルカは自らの軽率な行動が仲間の命を奪いかけた危機感から殿を買って出た。
敵はいきなり奇襲を仕掛けて来たマネキンの様な形をした正体不明の何かである。人型で武器を持たず、人の言葉を話す。
腹を括れ。…ッ!
ルカは自分一人が命懸けで戦えば逃すことくらいは出来るだろうと踏んでいた。しかし、現実は非情であった。次の瞬間にはレーザーのような攻撃が三本ほど横を通り抜けていた。
「クソッ!」
何やってるんだ。俺は!
レーザーは背後の三人を正確に撃ち抜いた。レイラの脇腹とミコの足に風穴を開け、レイの右羽を焼き切った。
「ダメだよ。そんな事されたら、摩擦とか考えてる余裕無くなっちゃう」
どうやら逃すつもりはないらしい。ただ、幸いな事に機動力を削るのみに留められている。
言葉通りに受け取るならば奴は
「殺されたくなければ生捕りにされろ」
と、言っているのだろう。
「俺たちが捕まったらその後どうなるんだ?」
「数日監禁して、解放かな。養う余裕もないし、それなりに数がいるからマナの補充も十分出来ると思うよ」
「そうか…」
ーーー交渉決裂だ。
監禁される事自体も判断材料に含まれているが、それ以上にマナを得た敵がどれだけ危険か想像もつかないのである。それは、逃走を試みた時に撃たれるレーザーを見れば明らかである。それに、相手が嘘をついている可能性も捨てきれない。
「死ぬよりはいいと思うよ?」
「そうだな、投降する」
2本の剣を捨てて、両手を上げる。そのまま、ゆっくりと歩を進める。
「ねぇ、こっち来てなんて言ったっけ?」
バレた!
「み…」
ルカの喉をレーザーが貫通する。
クソッ!指示が!
その時、
「逃げて!」
レイが『念力魔法』でルカを突き飛ばす。
「レイラは反対!作戦だよ!」
「了解!」
レイラはルカが飛ばされたのと逆の方向に走った。脇腹を襲う激痛を堪える。
来るなら来なさい!
彼女は次に飛んでくるであろうレーザーの迎撃準備に入った。
「だーかーらー、無意味なんだって!」
レーザーは軌道を読み盾を置いたレイラと木の裏に隠れたルカ、二人の足を正確に撃ち抜いた。
「僕が抑えるから、通報して!」
レイは『風魔法』で羽を補正する。
彼女はカードを使った教員への連絡を指示した。そして、その隙を作る為に全力の時間稼ぎを行うつもりだ。
しかし、その作戦には大きな欠点があった。他の三人は違和感を覚える程度で気づかなかったが、立案者であるレイは気づいていた。
作戦が成功したとして、その後、教員が駆けつける為の時間で本気の奴を相手気しなければならない。
「ほら!通報しちゃうよ!」
突撃しながらポケットに手を入れる。
「…ッ!うあ"ぁーー!!」
腕が吹き飛ばされる。だが、それは想定済みむしろ作戦の内と言っていい。自分が無理でも他三人ができればいい。
その後は、『念力魔法』で抱え込む。ルカの『衝撃魔法』のように初見の攻撃ならかなりの効果があることが分かっている。きっと、奴の油断と節約が影響しているのだろう。
魔法自体は見られているだろうが、その威力については一線を画している十分な効果が望める。
「ぶっ飛べー!!」
真上に打ち飛ばした。飛ばす場所を選ぶ余裕はなかったが、その代わりドリルの様に回転させた。狙いをつけさせない目的である。
これ以上は無いと言える作戦であった。しかし、奴の力はその上を行った。回転しているにも関わらず奴は正確にカードだけを撃った。
その後、地面に降りて来てレイに踵落としをした。
「僕は機械とモンスターのハーフだからね。こう言うのは得意なんだ。早く処置をして死んじゃうよ?」
「君、ボクっ子じゃん。名前何?もう一人誘ってトリオやらない?」
「僕はシル。安心して殺したりはしないから」
「そう…」
レイは『念力魔法』でルカとレイラを引き寄せる。二人の懐から応急処置用の魔道具を取り出して傷口に押さえつける。
「ねぇ、君が持ってるコア貰っていい?」
その時、戦闘の痕跡に釣られて誰が近づいて来た。
「来るのじゃ!コッチの方で光ったのじゃ!」
コアである。幼い女の子の姿をしていて、手にカードを持っていた。
「…ッ!」
「おっ?なんじゃ?」
シルはシルは彼女に向かって走った。手を鋭く変形させて突きを放つ。
「サイキョウパーンチ!どうじゃ!…うぁ!」
コアはその鋭い一撃にカウンターを合わせた。しかし、シルには傷一つ付かない。完璧に決まったカウンターだが威力が足りなかったのである。
ーーーー人はダメでも、モンスターなら食べてもいいよね?




