61話 自然公園ゲリラ作戦
自然公園前…人間がちっぽけに感じるほど巨大な木が何本も並び、他にも川や山の様な地形もある広大な公園である。
「デカいわね…」
てっぺんまで攻撃できるかしら
サリアは立ち並ぶ巨木を前に今一度自身の実力を確認する。手に白いメガホンを持ち呼吸を整える。
「すぅー…」
「こんにちはー!!」
サリアが自然公園に広範囲ブレスを放つ。
デジャブを感じる構図だが、便利なのだから仕方ない。ほとんどリスクなしにも関わらず高威力、使わない方が無礼な程である。
ただ、今回は範囲が広かった為威力が下がってしまっている。あまり遠くまで効果を期待することはできない。
「すぅー…」
「出てきなさーい!!」
「来てやったわよー!!」
彼女は次々と森にブレスを叩き込む。
「うるさい!」
そのうち、攻撃に耐えかねた誰かがサリアに向けて『雷魔法』の矢を放った。
ガキン!
しかし、その矢はカイトのサーベルによって弾かれた。
「ッー…!たくっ、現象系は弾いても爪痕残しやがるな」
手を抑え痺れを振り払う。『雷魔法』や『炎魔法』に代表される、元々実態を持たない生成魔法は他と比べて脆い代わりに特殊な効果を持つ。
追撃は無理だな…
使用したサーベルが『水魔法』で生成されていたことも重なり、体が痺れて動ける状態ではない。
ドン!
彼の斜め後方から、爆発音と共にナックが飛んだ。
「よっしゃー!ぶっ飛ばすぜー!あっ…!」
しかし、射撃点に飛んでいく途中で木の影から二人の男女が挟む様にして飛び出して来た。男子は鋭いバールの様なものを持ち、女子は肘や踵など身体の角に小さい刃を生やしている。
「…ッ!」
女子に氷の矢が突き刺さった。しかし、彼女は肘の刃をで受け止めた。
「あっぶ…きゃぅ!」
受け止めたはずの矢が再び衝撃を発生させた。
衝撃魔法の付与….!
彼女はそのままの勢いで吹き飛ばされて木に張り付く形で着地した。体中の刃を食い込ませてその場に止まる。
「まだまだ、行くよ!ミコはトカゲ野郎を狙撃して絶対守るから!」
「ナック様、死角にも注意を向けてください!」
ニナがナックに注意を促す。
「オッケー、次は前後左右しっかりやるぜ!」
「後ろはこちらでフォロー致します。その代わり上下を確認をなさってください!」
バールのようなものを持った男子にクイナが後ろから襲いかかった。
彼女が木に登っており視界の外にいたため、直前まで気づく事ができなかった。
「コッチもか!」
空中で体を捻り後ろを向く。彼女を迎え撃つために武器を大きく降りがぶった。
その時、クイナの動きがその場で止まった。空中に固定され瞬き一つしない。
レイが現れた。演出重視でゆっくりと舞い、皆を見下ろした。
「ごめんね、まだ使い慣れてないから無駄が多くて。改めまして、ご機嫌よう1-5の皆さん、僕h…ギャァァーーー!!」
お辞儀をしゆっくりと下降する彼女にサリアのブレスが直撃した。
「あれ、当たったわね…」
サリアは唖然とする。
事前に彼女は素早く視野が広い為、攻撃を当てるのは困難だと説明を受けていたのである。
「グフ…なんで皆んな名乗りを上げてる時に攻撃するのかな?」
「おい、待て、やめろ、」
クイナは現状に恐怖を覚えた。
サリアのブレスを受けたにも関わらず彼女は自身に掛けた『念力魔法』を維持している。ダメージで力が弱まり体を動かせる様になった。それなのに、右腕だけが何をしても動かない。
次の瞬間、クイナの腕が上方向に引っ張られた。
「やめろぉぉーー…」
「ブハッ…!」
彼女は全身を焼かれた事により、気絶した。
「撤退だ!リーダーがいつものでやられた!」
男が空中を蹴り方向転換すると、レイを受け止め小脇に抱えて森の奥へと走った。
「逃がしません!」
「チッ…」
ニナが氷の矢を放つ。しかし、矢は男の直前で何かに弾かれた。
「クソッ…」
男は立ち止まり後に続く矢を弾かく。
矢の攻撃自体は防ぐ事ができている。しかし、それに意識を向け過ぎており、その場から動く事ができない。
「アカリ!付与!」
「はい!」
アカリは差し出されたサリアの手を掴み『付与魔法』を発動させた。
『付与魔法』は物や魔法に他の魔法を付け加える事が出来る。先程受け止められた矢が衝撃を発したのは『衝撃魔法』が付与されていたからである。
そして、他の魔法と組み合わせない『付与魔法』は自身のマナを相手に使わせる事ができる。
「すぅーーー……」
ボン!、ボン!ボン!
戦場の中心に白い球が投げ込まれた。それは、地面につくなり破裂して辺りに『触媒魔法』の霧を発生させた。
「待たせた!」
「遅えぞ!エース!」
霧の中でエースが男の手を引き素早く後退する。
『触媒魔法』で『加速魔法』の効果を引き上げ一瞬にして撤退した。
「逃がさな…ッ!」
「すまねぇ!」
カイトは霧の影響で矢を捉える事ができずサリアへの攻撃を許してしまった。
「…いわよ!」
彼女は体が痺れているにも関わらず、根性で耐え無理やりブレスを撃った。
比較的広範囲を攻撃したがマナの供給と『触媒魔法』の経由が重なり、範囲を絞った対人仕様よりも高火力であった。
「ぐわぁーーー!!」
遠くからバールのようなものを持っていた男の叫び声が聞こえた。
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「ルカ、平気か?」
「あぁ、問題ない。肩をかすめただけだな。めちゃくちゃ熱かったぞ!マジで、今度くらってみ?」
「やめておく。」
「あのぅ、私、役に立ってました?矢、全部防がれちゃって、えっと…トカゲさん?の『声魔法』全然止められなかったの」
「いやー、分かんね」
「ちょ、あんた!。ミコは役に立ってたよ。あのサーベル使いが参戦したら私たち負け濃厚だったんだから」
「でも、二人残ってたよね?」
「あの、大男と黒いモヤ?いいの、いいの結果動かなかったんだから」
「確かに、何で動かなかったんだ?」
「動いてたぞ。」
「はぁ!?いつ?」
「いや、正確に言えば動こうとしてた。おそらく、レイ相手に仕事をするつもりだったんだろう。」
「おい、こっちの情報めちゃくちゃ漏れてんじゃねぇの!?てか、あんたの観察眼すげぇな」
「これぐらい、諜報員として当然。」
「でも、情報戦負けてたわね」
「うっ…」
ペシペシ
「おい、リーダー起きろー。あんたが居ないと負けるぞー」
「あのぅ、リーダーの弱点バレてません?」
「……こればかりは運だ。一応フォローは入れた。まぁ、安心していいだろ。もし、俺が相手側にいたとして、気付くか?て言われたら気づかないしな」




