1話 出会い 8/17手直ししました。
木造の民家の二階、そのうちの一室で一人の少年が黙々と勉学に励んでいた。
彼の名はリュート。学園の受験を明日に控える16歳の学生である。現在は最終確認として満遍なく知識を頭に入れている。
コロン、
背後で何か物が落ちた音がする。しかし、その場所には扉以外何も無いはずである。
おかしい
不思議に思って振り返るとそこには黒い宝石が転がっていた。それは、楕円形をしていて弱いながらも漆黒の光を放っていた。その光は、少し不気味ではあるが美しく強い力を感じる。
これはコア?何でここに?
コアとは人が魔法を行使する際に触媒となる石である。その成分はマナと言うエネルギーで構成されており、さらに、送り込まれたマナを魔法へと変換する力を持つ。
彼が不思議に思って見つめていると、頭の中に途方に暮れた幼い女の声が直接脳内に聞こえてきた。
「はぁ、どうすれば…」
「…ッ!」
念話魔法!?
声の主を探すために外を含め辺りを探る。ただ、誰の声だかは何となく分かっていた。彼はコアを見つめた。
なんか変なこと考えてる。大丈夫かな、僕。
意思疎通の出来るコアなんて聞いたこともない。第一、どうやって思考を保っているのかも見当がつかない。他にも、食事や移動など不可解なところを上げればキリが無い。
「しゃべるコア?」
一度考え始めたら好奇心が止まらなくなり、気づいたら話しかけていた。
「えっ!?わしを利き手の甲に乗せろ!早く!」
応えるように再び幼女の声が頭に響く。どうやら、この声の正体はこのコアで間違いない無いようだ。
少し妙だとも思ったが、随分と焦った声だったのと特に害が無さそうだったので、言われるがままコアを右手の甲に乗せた。
「小僧、魔法を使えそうか?」
コアかなり焦ってるようだ。魔法も問題なく使えそう。その辺りは通常のコアと大差ない様だ。
「うん、使えそう」
「そうか、そうか使えそうか、そうじゃ試しに使ってみないか?『結合』なんてどうだ?才能があればわしを使いこなす事ができるじゃろう。実はひび割れておってな。なに、魔法をかけるだけでいい、そうすれば全てうまくいく」
事情はよくわからないが、体がひび割れてしまって困っているようだ。このまま見捨てるのはちょっと後味が悪い。
それに、”意志を持つコア”と”才能”その二つの要素が彼の心を大きく揺らした。
「分かった。やってみる」
少年は息を呑み『結合魔法』をコアに発動させた。
すると、コアは手の甲に沈み込んでいってしまい、彼の手の甲と結合した。
「えっ?あれ?」
魔法の発動は成功したが、彼がが想像していたのとは違った。理解が追いつかずに呆気に取らてしまった。
「コッ、コレハタイヘンナコトニナッタナ」
コアは驚いてはいるがそれはもう見事な棒読みであった。演技なのだろうが煽っている様にしか聞こえない。
「これで、わしとお主は一心同体頼んだぞ、ご主人様」
「え?ご主人様?」
わざとなのだろうかコアは次から次に濃い情報をぶち込んでくる。リュートは状況に理解が追い付かなかった。
「わしはコアになってまった以上成長は見込めん。ご主人様の枠は常に、この役立たずによって一つ埋まっているのじゃ。養ってもらうぞ、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」
コアはとても嬉しそうに無邪気な子供の声で答えた。
「あっ…」
怒涛の展開着いていけず遂に、少年の思考が止る。しかし、よくないことが起こったそれだけは分かった。
ーーーーー
「君は何もの?どうしてここに来たの?」
リュートは少々時間をかけて情報を整理し、少し冷静さを取り戻した。
「わしは何故か自我を持ってるコアじゃ、それ以上でもそれ以下でも無い。ここに来たのは偶然じゃ。お主をどうこうする気はない。どうじゃ、他に聞いておきたいことでもあるか?ご主人様」
「僕はリュートここの宿屋で働かせてもらってるんだ、君の名前は?」
「そんなの無いぞ…そうじゃ!ご主人様が決めてくれんかぁ?」
コアがねだる子供の様に返した。
「えっ、えーと、んーーー、『コア』って言うのはどう?そのまんまだけど、結構いいと思う」
リュートは少し考えた後に結論を伝える。
「まぁいいじゃろう。気に入った。ところでお主はこんな夜遅くに何しておるのじゃ?良い子は寝る時間じゃろ?」
「明日、受験っていうのがあるんだよ。筆記試験の方は自信があるんだけど、戦闘試験もあるから。得意分野で出来るだけ点を稼ごうと思ってる」
「そうじゃなー、身のこなしが化け物みたいな女知り合いがいたんじゃが、そいつとの戦闘の記録がある、見てみるか?少しは、勉強になると思うぞ?」
「えっと、できるの?この記憶魔法弱すぎて他の人の記憶見れなそうだよ?」
コアの体はヒビが入っていたようにボロボロであり、まともに使える魔法は何一つない状態であった。
「いいか?おぬ…ご主人様とわしは一心同体、二つの心が一つの体に居を構えておる状態、自身の腕に魔法を使う感覚でやれば出来るはずじゃ」
「分かった」
リュートはコアの提案をのみ記憶魔法を使うことにした。
ーーーーー
数時間後、
リュートはベットの上でだらし無くうつ伏せになっていた。
「何をしておるのじゃ!?あそこで止めればわしが負けておるみたいじゃないか!」
コアは必死になってリュートに記録の再生を懇願していた。
「アレは、コアの負けだ。むしろ、アレで勝って嬉しいの?」
リュートは不貞腐れ、コアの頼みを一蹴する。
「いや、勝ってはおらんのじゃが、あの後なんじゃ!あと少しであの女の惨めな姿を拝めるのじゃ!」
「そんなのもう十分拝んだ」
リュートは枕に顔を埋め込み、毛布を被った。
「裸か!?裸のことじゃな!?あれはあやつのせいじゃ!わしは悪くないぞ!そ、それに、わしは常に裸だったんじゃぞ!そんなの分からん!わし悪く無い!」
コアは断固講義した。
「そうだったね、コアモンスターだったから人間の事よく分からないよね…ん?」
リュートは、首を傾げた。
「なんじゃ?ご主人様引っかかる所でもあったか?」
リュートは少し考えてからコアに訊ねる。
「…でも、コアってモンスターのわりに人間に対して詳しくない?僕の気のせい?」
「なんじゃそんな事か。穴、いや、ご主人様達の言う所の化け物の窓と言うのから観てたらの。言葉まで覚える程じゃからの、人間の生態には結構詳しいぞ。」
そうコアは自慢気味に答えた。
「流行のファッションとかも知ってる?」
「……あっ」
「有罪。」
ゴンッ!
リュートご言葉と同時に手の甲のコアが壁にぶつけた。
「…ッ!」
確かにコアで壁を打った。しかし、リュートの手の甲に痛みが走る。
「フーハッハッハッそんな攻撃痛くも痒くもないわ!!ご主人様がわしに攻撃するには自ら痛め付けるしかないのじゃ!さあ、これからどうするご主人様ァ!!」
コアが魔王の如き迫力でリュートを嘲笑った。しかし、その余裕は一瞬で崩れることになる。
「……」
リュートは黙って『記憶魔法』を発動させた。
「ヌワァァーー!それは、それはわしに効く!あぁー!数々の恥ずかしい記憶がー!」
リュートはコアの反応が無くなった頃に魔法を止めて寝た。
ーーーーー
次の日
「ご主人様ぁー、わしは受験とやら手伝わんぞ。絶対手伝わん、自業自得じゃ。」
「行ってきます。今までありがとうございました頑張って来ます。」
リュートはやつれ声のコアを無視しつつ宿屋の女将に元気よく挨拶をする。
「あいよ!がんばりな!」
女将は激励の言葉を送り、仕事の片手間に見送った。