51話 実践パワーレベリング.1
半ば強制的にパワーレベリングをさせられたリュート達であったが、魔道具の影響もあってか危なげなく送られてくるモンスターを処理していた。
そのため、数を追うごとに班訳や塹壕掘などが進み、安全性と効率が高められていった。
「そろそろ時間です!B班、位置についてください!」
サイカが声を上げる。彼女はリオンにメモを渡されたこともあり、その場の流れでまとめ役を行なっている。
彼女が円滑に指揮をすることで、他の者は余った時間を有効に使うことができた。
班はA.B.C.の三つからなりそれぞれ十人程度である。
一つの班がモンスターを相手にしている間に、残り二つの班が用意と休憩を行う。
現在、モンスターの相手をしているのはB班である。チームリーダーを務めるのはレンとなっている。
彼はサイカが指揮を取れなくなるような緊迫した状態に陥った際に撤退や迎撃などの判断をする事になっている。
しかし、誰もそのような事が起こることはないと思っていた。その証拠に具体的なことは何一つ決まっていなかった。
時間になりモンスターが送られてきた。
丸々と太った鼠型外生生物が現れた。歩くのもおぼつかないほどの肥満度であり、少なくても自身で餌を取っていない事が窺える。
だが、現時点のリュート達では全く敵わない差がそこにはある。戦略の余地も挟まない生物としての圧倒的なマナ総量の差がある。攻撃力、防御力は元より、苦手である瞬発力でさえクラスで最速のカリスを凌駕する。
しかし、モンスターがその実力を発揮することはなかった。姿を現した瞬間に頭と腹、右腕に風穴が空いた。地面に着地する間も無く勝敗が決した。
モンスターは何も出来ず、状況を理解することもなくコアを残して霧散した。
このように一方的な戦闘になっているのは、魔道具と奇襲のできる状況が大きい。
特に魔道具、アヤメの目利きでは高級な魔道機械であるとされた。
しかし、この魔道具の特別なところはそれだけでは無かった。これらは、常識外れな威力を発揮した。Sランク相当のマナを持つモンスターを一撃で撃破するほどである。
原因は使用されているコアの質にあった。サリアが言うには一国がいくら資財を使おうと手に入れられない物であるそうだ。
それが大量に用意されている。
「うっ…!」
ニナが口を抑え膝をついた。何の前触れもなく起きた事に皆が驚き駆けつける。
最初に駆けつけたのはアカリである。彼女はニナから最も近かったためすぐに対象する事ができた。
「ねぇ、大丈夫!?立てる?」
アカリは肩を貸して安全地帯の家へと向かう。
「どうしました?何があったのか家の中で話してください」
サイカが駆けつけて反対側の肩を持つ。ニナの様子を見ると、顔が少し赤くなっており、足がおぼつかなくなってしまっている。
「ただのマナ中毒です。心配をおかけして申し訳ございません。対処方法も存じております。一人で対処可能です」
ニナは辛そうにしているが、二人を押し退けて歩く。
「千鳥足になってます。家までは運ばれてください」
サイカはふらふらのニナを再度捕まえて歩く。幸いモンスターが送られて来たすぐ後のため、時間には余裕がある。
「ニナ!無事か!?」
カリスが猛スピードで駆けつける。彼はそれなりに遠くに位置していたが、先に着いた二人と遜色ない時間でたどり着いた。
その時の彼はニナの元に向かう野次馬と救助者を引き返させる覇気を持っていた。
「マナ中毒になりました。クラスの方々に痴態を晒すのは忍びないので付き添いをおねがいします」
ニナはあざとくカリスにもたれ掛かる。
「聞いたとおりだ。連れていくがいいか?」
カリスは二人に尋ねる。彼は恥じらう様子もなく肩を貸し、家の方に歩いて行った。
「ん"ーー……」
サイカが声に唸り声を上げる。片手で顔を覆って空を見上げる。
「…ッ!待って、どうしたの!?」
アカリはサイカの声に驚いて聞く。
「もう、行くとこまで行けばいいのに…」
サイカが少しイライラしながら声を漏らす。
「メイドと主人でしょ?普通なんじゃない?」
アカリはよく知らないため「そう言うもの」だと受け入れた。
「絶対違う…絶対、はぁ…」
サイカはアカリの発言に強い憤りを覚え、ため息をつく。
バリッ!
唐突に空がひび割れる。モンスターが見えない壁にへばりつくようにしてこちらを見ている。
「…ッ!退避ッー!」
サイカが大声で叫ぶ。
その声を皮切りに皆が家に向かって走る。
モンスターが歯を立てて壁を噛もうのしている。しかし、ツルツルと滑って上手く噛み砕けずにいる。しばらくすると、諦めたのか動きが無くなり、静かになった。
モンスターのコアに吸い込まれるように消える。そして残ったコアがひび割れて爆発した。
爆発音に混じりパリンと何かが割れる決定的な音がした。どうやら、障壁が破壊されたようである。
モンスターが飛んできたであろう方向を確認すると、似たような影が向かって来ていることが分かった。
ほとんどの者はリオンへの連絡するべきであると考えたが、本気で戦おうとする命知らずが数人いた。
その先頭に立つのはサリアである。しかも、彼女は現時点で唯一の連絡手段である赤い球の魔道具を所持していた。
「いいじゃない。こういうのを待ってたの。みんなで戦うわよ!」
サリアは振り返ると、これ見よがしに赤い球をクラスの皆に見せつけた。




