44話 リオンの前の静けさ
ラウドの力はランク外には及ばないもののランクAの生徒を指揮するに足る実力を有している。それでも、自身を一般的なランクAと自称するのは一会に金が掛かるからである。
（畜生！どいつもこいつも過剰評価をしやがって！）
ラウドの鞄から手のひらサイズの四角い魔動機械が無数に飛び出し、無造作に転がった。
腰を低く落とし戦闘体制をとり、「壁魔法」を発動させる。両肘の手前から半透明の四角柱が三本づつ伸びた。それは手の先で合流し、捻れ細長い槍の穂先を形成した。
魔動機械（魔機）も個々の生成魔法で同じように穂先を形成して自身を覆う。
「行くぞ…ハッ！」
ラウドは声をかけた後に急加速し、魔機の先導しながら一直線に群れを蹂躙する。万軍を通り過ぎた辺りで『壁魔法』と『座標魔法』の足場を生成して方向転換を試みる。着地をしてまた飛び立つだけの一瞬の出来事ではあるが、その一瞬が命取りになる。
ラウドを危険因子と判断した万軍は過剰とも言える濃密な魔法攻撃で弾幕を張る。
だが、ラウドは攻撃を気に留めず飛んだ。
（絶対に経費で落としてやる！）
ラウドは全てを出し切る決意を固めた。彼と魔法との間に魔機が入り込む。今まで追従するだけだったが、盾としてラウドの隙を補った。しかし、攻撃を受けたそれは使い物にならないほど粉々に砕け落下した。
「スゲー…さすがバ…ランク外と…、さすが猛獣使いだ」
男子生徒 1 が万軍の内部で暴れ回るラウドに圧倒されて言葉を零した。
「あなた、繕うなら最後までやりなさい。なんで諦めるの？」
トウカが呆れた様子で話しかけた。
「なんか、いいかなって…」
男子生徒 1 は開き直っていったた。
「だったら最初から素直にしていなさい。それに、私なんかよりラウドの方がバケモノよ。思い返すだけで…うっ、お腹がっ！」
トウカが顔を真っ青にしてお腹に手を当てた。
「お腹がっ！？（なぜ！？それにしても、あの無限に増殖するサディストがそこまで恐怖するとは恐ろしい先生だ！）」
「先生怖いもんね…」
女子生徒 1 が呟く。
「あなた今、失礼なこと考えなかった？」
「はい。考えました」
男子生徒 1 が悪びれる様子もなく答える。
「取り繕うことすらしないの！？あなた生徒でしょう！？」
「嘘ついたって見抜くじゃないですか。どうすればいんですか！？」
「上手に嘘を吐きなさい、簡単でしょう？」
「簡単にランク外を出し抜けるわけがないだろ！」
「最初から諦めて…はぁ、だから貴方はランクAのままなのです」
「ぐっ…（サディストめ！）」
言い争いをしている二人の間にマナを切らしかけたラウドが飛んできて睨みつけた。
「サボるな」
「「ハイ！」」
二人はビクッとして反射的に答える。
ーーーーーー
地下シェルター内の一室で一人の男子が過去の記事を漁りながら眼鏡を曇らせていた。
「ん～……」
「どうしたの？番、回ってくるよ」
一人で考え込むメガネにリュートが話しかけた。
「あ、はい、今行きます……えっ、何の？」
メガネは応えた後に、心当たりのない順番に思わず聞き返す。
「ん？何って、麻雀大会だよ」
「待ってください！僕、そんなのエントリーしてませんよ！？」
メガネは当然のように話を続けるリュートに戸惑いながら参加を否定する。
「大丈夫、負けても何もないから。裏で賭け事は行われてるけどね」
「僕は参加表明してないんですよ。きっと、何かの手違いです！あっ、ちょ、押さないで下さい！」
「はい」
リュートはメガネの背中を押す。
「分かりましたよ。やりますって、やりますから！」
メガネは押し切られる形で席に座る。
「ふんっ！」
ゲームで勝利したメガネが拳を天高く掲げた。
（何か八百長のようなものを感じました。なるべくしてなったような…）
「ッ…！」
メガネは賭けの内容が記載された表を見て戦慄する。
（リュートさんの一人勝ち！？まさか本当に…！）
メガネはリュートの所行にドン引きした。
（おや？）
リュートと表に名前の無いニナがポイントのするところを目撃する。
（また八百長ですかぁ？怪しからん、実に怪しからんのです。私にも分け前を渡して貰いますよ）
メガネも存外ゲスなのであった。
（む？データでのやり取りですか、なかなかに慎重ですね。それなら…あっ、）
メガネはニナと目が合ってしまった。リュートも遅れて気づく。そして、何故か手招きをされた。
メガネは誘導に従い人気の無い角へと足を運んだ。
「ねぇ、僕が話しかける前、何考えてたの？」
リュートはメガネに質問をした。
「話しかける前とは？」
「麻雀する前だよ、一人で考え事してたよね」
「つまらない事ですよ（狙いが全く読めない！何を考えているのです！？）」
「いいから、いいから」
「緊急事態速報の事です。内容がいつまで経っても通知されないので…」
メガネは二人を警戒して言葉を慎重に選ぶ。
「ねっ、言った通りでしょ」
リュートは自慢げにニナに言った。
「そのようでしたね」
そう、リュートに返した後にニナはメガネに対して、
「その情報お買い求めなさいますか？」
と言った。
「買わせて貰います（ランクAの外生生物が数十体の集団が攻めてきても通常運行していた学園が警報を出す。これだけの事件その後には相当な経済の変化があるはず。ここで買わないという選択肢は無いのです！）」
メガネが腹を真っ黒にして考えているとデータが送られてきた。
「ま、ま、ま、ングッ！」
情報を見て取り乱すメガネをリュートとニナが二人がかりで取り押さえる。
「何考えてるの！？パニックでも起こすつもり！？」
「そもそも、なんで二人はそんなに冷静なんですか！？神獣なんですよ！」
「隠されている情報にはそれなりの理由があるものなのです。覚悟してから聞いてください！」
少し時間が経ち、メガネが冷静さを取り戻してきた。
「どう落ち着いた？」
「はい、おかげ様で落ち着きました」
リュートの問いにメガネが答える。
メガネの落ち着きが取り戻された時に突然、担任教員の声がした。
「やっと見つけたと思ったら、商業科みたいなことしてやがったのか…まぁいい、クラスのやつら全員ここに集めろ」
リオンは言いたいことを言ってすぐにどこかに転移してしまった。
「ん？さっき動いたから肩が痛いような…」
「私も腕に違和感がございますね」
リュートとニナが唐突に体の不調を訴え出した。
「分かりましたよーだ」
メガネは渋々クラスの人にを探しに行った。
