苦悩者ラウド
「まずは、ミーニャを壁まで送れ」
学長の声がリオンの頭に直接響く。先ほどつけたイヤホン型魔道具の影響である。
(直接言えよ)
リオンは心の中で呟くが、機能が一方的であるため相手に伝わることはない。
唐突にリオンがミーニャの肩を掴む。
「ニャ!?」
ミーニャが肩をビクッとさせて驚き、リオンの魔法で飛ばされた。
「次、」
リオンが学長に声をかける。
ーーーーーー
新作戦開始の直前に自陣にて一人の男性教員が現実逃避で黄昏ていた。五人チームのリーダーにも関わらず茶色い瞳は曇り絶望に染まっていた。普段からそう言う調子であるわけでは無いが、彼の耳にはそれに相応しい情報が入ってきた。
(後方支援はリオン一人、か…今日こそ死ぬかな…ハハ)
彼はラウドである。リオンやミーニャ達と同期であり良き友人でもある。実力も高くランクのAの生徒を任せられるほど実力の高い。しかし、そんな彼には悩みがあった。
(あいつらは俺の実力勘違いしてるんだよな…)
ラウドはそっと肩を落としため息をつく。
「お、先発お前だったんか」
ラウドの目の前にリオンが転移してきた。全部隊をそれぞれのポイントに転移させるよう学長から指示を受けたためである。
(げっ!)
ラウドはビクッとした。彼はリオンを嫌っている訳では無い。寧ろ親友と呼べる仲である。
「俺はランクAだランク外じゃない忘れるなよ」
ラウドは極めて真剣に抗議する。
「分かってる」
「そっか…なら良かった(分かってくれた)」
ラウドはほっと胸を撫で下ろす。
「よって、これは俺の独断だ。記録に残ることは無い。心配せず暴れろ!」
リオンはそう言ってラウドの背中を押した。
「おい!今お前なんて言っ…た?」
ラウド言葉に違和感を感じてすぐに振り向く。しかし、そこにリオンの姿は無かった。代わりにそこには入れ替わるようにしてトウカが立っていた。
「ラウドが来たの?余裕じゃない!」
トウカは声を弾ませて嬉しそうに言った。
「まて、俺にそこまでの力は無いぞ!いい加減気付け!(お前らランク外とランクAの違いわかってる!?)」
ラウドは今までの苦労を思い返し、怒りを込めてトウカを怒鳴った。
「あ…(言い過ぎた)」
怒鳴りつけたことに引け目を感じ言葉を訂正しようとする。
「分かったわよ…でも、足手纏いになるつもりはないわ。安心して」
ラウドがきたことで気を緩めていたトウカは反省して言った。
(待って!?そんなこと言って無いんだけど!?)
「いや、そうじゃなくてな…」
「え?何か違った?」
トウカがラウドの声に反応する。
「俺、ランクAだから!コイツらと同じだから!」
ラウドは自身のチームメイトを指して言った。
「あなたねぇ、これ以上の謙遜は逆に皮肉よ。一人にされたい?」
「マジですいません」
「でしょ?さすがに貴方でも一人で足止めは厳しいわ」
「不可n……」
「置いてくわよ?」
トウカが言葉を遮って威圧する。
「本当勘弁してください!」
「言葉には気おつけることね(腰が低いのが難点なのよね。虐められたいのかしら?)」
「そんなに俺のこと殺したいの?」
「そんなに拗ねないで、あなたのこと周りに言いふらすような真似しないから。あなた達今日のことはもナイショね」
「「はい!」」
ラウドのチームメイト達は勢いよく返事をした。その後、後ろでコソコソと話し始めた。
「やっぱりラウド先生凄い人だったんだよ!」
「じゃなきゃあのパーティでリーダーなんてできる訳ないだろ。俺は知ってたぞ」
「隠れた実力者って感じ?憧れるわー」
「こんな機会次あるかどうかも分からない。しっかり目に焼き付けておこう!」
ラウドの実力が実力を隠している話は有名なようで、誰も疑いを持たなかった。
「ねぇ、ラウド。お詫びと言ったらなんだけど、開戦の狼煙打たせてあげる」
「ん?」
唐突な出来事に理解が遅れる。
「一発デカイのぶつけて気を引いてね。それが合図になる予定よ」
トウカが肩を叩いた。
(そうか、そうか、お前らは俺をそんなに殺したいか…もういい。やってやるさ!あぁ、やってやるとも!所詮相手は万軍の小指程度、被害は少なく済むはず。こうならヤケだ!)
ラウドは滲み出る涙をグッと堪え、左右の腰に付けられた鞄に深々と手を突っ込んだ。
(通帳よ!砕け散れ!)




