42話 万軍、無傷の秘密
リオンとミーニャは爆破で開いた穴から下に降りる。蛇の様に形成された万軍の下顎辺りから脱出する。
「おっ、」
リオンが命からがら逃げ延び、たった一人で全力疾走するトウカの分身を発見した。
「ミーニャ、撤退だ!」
リオンはミーニャの元に転移する。
「んニャ!」
ミーニャもノリノリで転移し、その場で決めポーズまでした。
「にゃ…(や、やらかしたにゃ~……)」
ミーニャは目前の光景を目の当たりにし固まった。
一方、リオンはトウカの分身分身の元に転移した。
「あっ!愚t…」
分身は背後に転移して来たリオンによって、一言も話せずに転移させられた。
「さてと、」
リオンも後を追うように転移した。
「どうした?お前、」
司令室に転移したリオンは、いつものように猫のポーズをとったまま、顔を青ざめて固まっているミーニャに困惑して声をかけた。
「ミャッ!……こう言う場所に飛ばすなら言って欲しかった……にゃ」
ミーニャは大勢の視線と真面目な雰囲気に晒さられてすっかり萎縮してしまった。
「ん?あぁ、すまん」
リオンは申し訳なさそうに言った。
「なんだ…アレはやらんのか」
「ニャ!?」
がっかりした学長の言葉にミーニャが反応する。
「彼が君のファンらしくて、君の話ばかりするもんでな。気になってたんだ」
学長が隣に立ついかにも優秀そうな男を指して言った。
「ファンです。」
男が淡々と話し軽く会釈をした。
「ありがとにゃ~…」
「握手をお願いしてもいいですか?」
手を前に出し歩み寄る。
「ど、どうぞにゃ~…」
ミーニャはこの時、究極の二択で頭を悩ませていた。彼女は個人でアイドル配信をしている。アイドルとして人気が群を抜いて高い訳ではないが、ランク外と言う称号を持つため知名度は世界一である。その複雑な事情により、二種類のファンが存在する。
(ど、どっちにゃ~…)
顔には出さないが警戒心は最大限に高められている。
「ハァッ!」
男は握手を求める手に光の剣を形成して切り掛かった。
(やっぱりにゃ!)
ミーニャは二本の尻尾を伸ばして攻撃を防いぐ。
「にゃ!」
カウンターの素早いパンチが男を吹っ飛ばす。
「ありがとうございます…」
そう言うと、男はガクッと頭を落とした。一見ドMにしか見えない彼だが特別おかしい訳ではない。むしろ多数派とも言える悪き風習である。
「「おぉ~~」」
室内に関心の声が広がる。
「こう言う注目のされ方は慣れてないにゃ…、」
ミーニャはリオンの後ろに隠れてモジモジとする。
リオンはミーニャの頭を軽く叩いて前に出る。
「で、本題なんだが万軍大きくなってないか?」
リオンの言葉に周囲がざわつく。その雰囲気は衝撃が走ったと言う訳ではなく、案の定と言うものだった。
「いや~、打つ手なしじゃわい!」
学長が開き直った感じで言った。
「ちょっと待って!?笑い事じゃないわよ!?」
トウカの分身が取り乱す。
「まぁまて、いざとなったら「破壊神」出す。その時は頼むぞ」
「ガチの最終手段じゃない!?」
「今、個体を複数確保して学者たちが調べてる。コレで弱点が見つかればそれでいいが…」
学長の手元にあるパネルにデータが送られてきた。
「うーん、良い知らせと悪い知らせどっちが良い?」
「早くしろ!」 「早くしなさい!」
「何?反抗期?」
学長は辛辣な孫の対応を受けて、渋々ながら説明を開始した。
「群れを形成する個体は精霊を宿しているらしい。魔法が効かないのはそのせいだ」
「「……」」
皆、あまりの絶望感に言葉を失った。
精霊は正式名称を|精霊型外生生物《スピリット系モンスター》と言う。彼らの特徴は相性の悪い魔法にめっぽう弱い代わりに相性のいい魔法は全て吸収して糧にすることができるのである。
「精霊が他のモンスターと共生するとは…」
「砲撃を耐えたんだ。全ての魔法を吸収できると考えて良い」
室内の雰囲気が暗くなる。
「良い知らせはなんにゃ?」
重苦しいムードを断ち切るようにミーニャが質問をした。
「あぁ、それは奴に攻撃が効かない訳ではないと言うことだ。細かい部分は弾くが、纏われている精霊は特殊で特定の魔法への有利相性を持たない。よって、役目は魔法やモンスターの霧散したマナを集めてモンスターに献上のみをになっている。つまり、削り取るように分断して戦えば勝機がある!気張れ!お前らァ!」
学長は周囲を鼓舞し、手元のコンピュータでデータを送信する。
「独断で班を組んだ。近距離組は分断!遠距離組は各個撃破だ!」
学長の掛け声で皆が動き出す。
正直言って絶望的な状況であるが故に手を動かすのみである。
「リオン、お前は後方支援を一人でやってもらう。救助、運搬、そのつど指示を出す。コレを持ってけ」
学長はリオンに片耳のイヤホンを投げ渡す。
「おう、任せろ」
リオンはそれを耳にはめた。




