36話 モンスター牧場名物。モンスターパラダイス
「イッ!」
齧歯動物の爪がリュートの腕を掠めた。
(これは、まずいいかもしれない。でも、)
飛びかかるモンスターに対して上体をずらし、すれ違いざまに両断した。
キィ!?
モンスターは敵の動きを掴み流れに乗ってきた、その時にこの事態である。動揺のあまり足がすくんでしまう。
それと同時ににある考えが浮かぶ逃げるべきであると。今まで通り逃げて隠れて、いつのまにか用意されている餌を食べればいい。そうやって今まで生きてきたのだからそうすればいい。
しかし、今回は状況が違う隠れていたのに炙り出されてしまっている。逃げられるのだろうか。
そして何より、仲間を半数も殺されている。今まで生活を共にしてきた仲間を半数もだ。そのことを考えると胸の奥から怒りという感情が沸々と湧いてきた。
この惨状を目に彼らのとった行動は徹底抗戦だった。
キィ!
彼らは三匹で一斉にレンを狙った。武器持っているリュートよりも後方的道具を作っているだけのレン狩りやすいと判断したためだ。
「俺様を狙うか…愚かな!(キリッ」
レンが無意味に格好つけて迎え撃つ。そして、小さめな盾が浮遊してモンスターとレンの間に割って入ってきた。
カーン!
元の作戦では前衛はレンが務める予定であった。一瞬の隙さえあれば自動で自分を守る簡易魔動人形を即座に制作するその戦い方は汎用性が高くこ。それにより、数秒あれば防御系の簡易魔動人形を複数制作し難攻不落の要塞となることができるのだ。
一足先に飛び掛かっていた2匹が弾かれる。そして、一匹はレンの剣、もう一匹はコユメの花びらによって命を落とした。
「残り一匹でありんす!」
コユメがその光景を目の当たりにして戦闘の勝利が近いことを確認する。
家族が二人、目の前で切り刻まれる中、残り一匹になり手遅れながら悟った。自分達の単純な攻撃。リスクを顧みずに立ち向かう異常さ。何故そのようなことをしてしまったのかと後悔の念を抱き、根の海へと落ちた。
「これで終わりなのです!」
リョウカが最後の一匹にとどめを刺した。
「あぁー、危なかったー」
レンが岩の出っ張り腰を下ろした。
「カウンターが有効でよかったね」
「あぁ、進化無しでこれだとかなりキツイぞ」
「そうだね」
「難しいでありんすね」
「いや、頑張れば何とかなるのです!」
「いや、それは無い」
「楽観的すぎでありんす」
「なんか、脳筋混ざってない?」
「あー、それ、よく言われるのです!全然そんな事無いのに!何で?」
リョウカは頬を膨らませて座り込んだ。
「そうなんだ…」
四人は束の間の団欒を楽しむ。
彼らも当然モンスターも生きていて感情を持つことは知っっていた。最後、飛びかかってきた理由も重々承知していた。皆口にしないだけでしっかりと理解してる。
しかし、彼らは同情などはしない。感謝を示すことはあれ、同情など絶対にしない。それは圧倒的強者が弱者がコツコツ積み上げたものが壊こわれ時に感じる身勝手な罪悪感であるからだ。
ゴン!ゴン!ゴンゴン!
レンの生成した鋼の壁がものすごい音を立てて歪み始めた。
「おい!」
「うん、」
その音、その攻撃力から明らかにさきほどのモンスターとは別格である。
各自で迎撃体制を整える。
リュートは『軟化魔法』と『岩魔法』で手前にバリケード、その奥に沼、横に壁、を作り出す。
レンは鋭い八面体の簡易魔動人形を大量に作成した。さらに、先程モンスターの攻撃から身を守った。盾型のゴーレムを自分に四つ三人にはそれぞれ二つ付けた。
コユメは、出来るだけ『冷炎魔法』で花びらを形成する。
リョウカは根を前方に集めて『粘液魔法』と『腐食魔法』を発動させた。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン、
その音は数匹という程度で収まるものでは無かった。
「おい!逃げ…いや、迎え撃つ!」
ガーンッ!
レンが逃げる判断をするまもなく、壁が突破された。
空いた穴からE級とD級の齧歯動物が湯水の如く溢れ出した。
大多数が先程相手にしていた60センチ台のE級であるものの、しっかりとD級の齧歯動物もしっかりと複数体混ざっている。
D級は一度進化しただけあって、個性的な個体が多い。
小柄になり素早さに特化した個体。
身体能力、体格を犠牲に遠距離に特化した個体。
より大型化して力に特化した個体。
その他、個性的な進化を遂げた個体が複数存在している。
明らかに百を超えるであろうその光景に一同が驚愕を顕にする。
「…ッ!な、なんじゃこりゃー!」
レンがヤケクソになって叫ぶ。
それは、隠れやすい立地、大量の餌、小型モンスターの繁殖力が合わさり訪れる。
モンスター牧場名物、モンスターパラダイスである。




