22話 森のアサシン.2 3/22 手直ししました。
リュートは一度目の攻撃でナイフうどしが接触した音が聞こえなかった。それに二度目の右後方からの音を聞いて確信を得る。そして三つの仮説を立てた。
・『幻影魔法』による幻。
・『付与魔法』による罠で『幻覚魔法』を受けた。
・『光魔法』と『反射魔法』あるいは『屈折魔法』による幻。
つまり、幻を見ているということである。しかも、どうやっているか分からないが、発信機の赤点が四方八方へと無茶苦茶に移動している。
(発信機は信用できない…ん?)
忙しなく動いていた赤点だが一つの方向に止まった。
限りなく怪しいが他に選択肢は無かった。
息を整え『軟化魔法』を発動させる。ドームの天井を軟化させる。開いた穴から体を出し、背後に岩の壁を生成する。
(見つけた!)
先程発信機の示した方向に黒い人影を見つける。暗くてよく見えないが明らかに人の形をしていた。
「ふんっ!」
リュートはその人影を目掛けて岩の槍を投げた。
しかし、人影は槍を避けようともせず木の後ろから顔を出したまま微動だにしない。槍は何事もなく人影の頭を穿った、かの様に見えた。
槍は通り抜けた様に見えたが、地面に突き刺さった様子もない。
不思議なことが多く何が起きているか理解できなかったが、一つだけ確信を持てるものがあった。
(囮!)
リュートは『岩魔法』で大太刀を形成して背後を思い切り薙ぎ払った。その際、壁に『軟化魔法』を掛けた。よって太刀に抵抗を感じさせず壁の向こうの標的を捉えた。
太刀は「ギギーーン!」と、鍔迫り合いの音を立てて何かを吹き飛ばした。
大きく突き飛ばしたはずだが不自然なほどに音がしなかった。
(消音魔法…すごく厄介)
リュートは奇襲を警戒して武器を形成する。
壁が崩れ落ち視界が開ける。しかし、そこには予想と違った光景が広がっていた。
真っ黒なモヤが移動の軌跡を辿るように発生していたのである。
「闇魔法ッ!?」
リュートは驚き近くの木に身を隠した。
『闇魔法』とは、光も通さない真っ黒な霧を生み出す生成魔法である。差異はあれど『闇魔法』は、触っても通常の霧と変わらない。
もちろん、硬化させて武器を形成することもできる。
ただ、最も大きな特徴は生み出される霧にある。闇と呼称されるそれは、マナに対しての抵抗を発揮しする。それは、闇の質や濃度によって異なるものの魔法の力を削ぎ減衰させる。
これは、どんな魔法にも適応されていて『闇魔法』を発動した本人の魔法や、『闇魔法』そのものでも例外では無い。マナを使用するものは例外なく影響を受ける。
『岩魔法』であれば崩れ落ちマナとなって霧散する。『念力魔法』や『空間魔法』は著しくその効力を落とし、マナの消費を増大させる。
対策には、物理的に接触しない体内完結型の魔法などでなければならない。
リュートの戦っている相手を仮に「アサシン」とする。
彼は静かに、そして素早くリュートを追い込む。闇を生成しながら木から木へと飛び移る。近づこうにもナイフの牽制がそれを許さない。
アサシンの使用している『闇魔法』はちょうどいい重さにより、霧散するまでその場にとどまり続ける。時間を追うごとに闇の壁がリュートを囲んでいく。
彼の『闇魔法』は発動範囲が狭くい。そのせいでナイフをのような小さいものしか形成できない。だが、そのおかげで生成された闇の性質がより強くなっている。
それは投げた岩の分銅が闇を通り過ぎることすら出来ずに砕けて霧散してしまうほどである。
「……(これはすごく濃い)」
リュートは想像以上に濃度の濃い闇を前に攻めあぐねる。悪あがきに周りを見回すが良策は思い浮かばなかった。
(これしか無い、か…)
リュートは葛藤の末に魔法でナタを形成する。それを使い近くの木から手頃な木の棒を数本切り取った。
リュートは発信機を覗き居場所を探る。そして、赤点の示す方向に向かって木の棒三つ持って走り出った。草木をかき分けて進む。
「見つけた!」
リュートがいきなり叫んだ。人の形を象った闇が浮かんでいるのを発見したのである。
「…」
リュートは走りながら発信機を覗き、位置が変わっていないことを確認する。
切り取った枝の一本を地面に擦らせ『岩魔法』を発動させる。すると、砂埃を巻き上げ、地面を削りながら刃の広い巨大な剣が形成された。ゴツゴツとしていてほぼほぼ鈍器のような形状をしていた。
「…ん、んッ!」
リュートは重そうに巨大な剣を闇に振るった。
案の定ただの囮であり手応えはなかった。剣は触れたそばから砕ける。しかし、リュートの狙いは別にあった。中に入っていた土や石、それと霧散し損ねた岩が共に投げ飛ばされる。
ガサッ!ガサッ!ドスッ!ドスッ!ザザッ!
石や岩、土が飛び散り前方の草木に勢いよく当たった。再度発信機を確認、以前として反応は前方に存在する。しかし、その先は『闇魔法』で作られた壁があり、奥に何があるのか見当もつかなかった。
闇の特性であるマナに対する抵抗は魔法の発動にマナを大量に注ぎ込むことで抗うことができる。
しかし、自分からの手元から離れてそれ一つで成り立っているものはマナの供給が出来ずに霧散してしまう。
抗うには身体魔法になどの自身と繋がりがある魔法でなければいけない。
リュートは闇内部での戦闘や壁の先の罠を考慮して『加速魔法』を発動させる。
彼の使用する『加速魔法』は短期決戦型である。それは、持続性を捨て瞬間的な速度を重視したコアとなっている。そのため、マナ消費の影響を無視できなくなる。
もし、闇を抜けるのに時間が掛かった場合、マナの枯渇した状態でアサシンを相手しなければならない可能性がある。
しかし、リュートには考えがあった。策というには不確定要素を多分に含んでいるが、これが考え得る最善で勝率の高いものであった。
リュートは躊躇することなく闇の壁に入る。
「どうか、当りますように…」
リュートは作戦が成功するように軽く祈った。進んだ闇の中で最大限に奇襲を警戒をする。しかし、武器である棒は相手の体制を崩す程度の役割しかできない。よって、割り切りそれのみに集中する。
「……」
リュートは覚悟を決める。この先で闇を抜け出た時、アサシンは現れるようならば負けが確定的になってしまう。
暗い環境から明るい環境に移動する際に目を眩ませてしまう。その隙をつかれたらまず勝てない。
前方約180度何処からか飛んでくるかも分からないナイフや魔法を武器の無い状態で覆せるほどの技量は持ち合わせていない。
もし、アサシンの姿が目に入った場合は既に王手を掛けられた状況である。打開策など勘で剣を振るうくらいしか無くなってしまう。
(よし!)
リュートの前に闇魔法の中を通り抜けた。その 過程でアサシンが姿を現すことはなかった。
予想外なことに闇は肩幅程の厚みしかなく、そこは嬉しい誤算だった。彼の心配は杞憂に終わりほっと安堵する。
ここまで来れば尻尾を巻いて逃げるのみである。わざわざ危険を犯す必要もない。
リュートは祈っていたものの作戦の成功は九割ほど確信していた。それは、相手を冷静に分析していたためである。
戦い始めてすぐに発信機が当てにならないと分かった。そのため、常に後ろを警戒していた。
案の定、槍を投げ隙ができるタイミングで襲われた。予想はしていたが、アサシンを仕留めるまでには至らなかった。
しかし、戦いの中でいくつかの優良な情報を入手していた。
一つ目に、発信機の偽装はアサシンの意志で操作が可能な点。
槍投げの時、反応のある場所と同じところに囮が設置されていた。これはリュートの発信機がどう反応しているのかが分かっていなければできない。感知出来るだけの可能性もあるが、彼だけが利用できることを考えると操作と仮定したほうが想定外のことが起こらない。
二つ目に、彼は正確に自身の動向を観察できているわけでは無いという点。
コレも槍を投げた時である。背後に壁を立てた壁に視界を遮られたのだろう。ベストタイミングから一歩遅れたタイミングであった。
リュートはそれを前提に作戦を考えた。
まず、相手の狙いを考えた。始めに発信機の反応が現れた時、あからさまな移動の仕方をしていた。まるで異常であることを知らせるような動きをしていた。
これは、途中で位置の偽装を看破され利用されることを懸念し、初めから確実に一つ相手の手札を潰せる確実な作戦を取ったと予想される。
だから、バカになることにした。目の前の偽物と書かれた餌に喰らいつく。
地面を巻き込んで形成した大剣でデコイを薙ぎ払う。
相手は罠を警戒するだろう。一度それでやられかけている。頭をよぎらないはずがない。
警戒し、慎重に、後をつけてくるはずだ。ならばその隙に全力で逃げれば良い。それでも追ってくるようならば流石に姿を捉えることができるだろう。
そうなれば、移動の際に仕掛けた罠と合わせて立場の逆転が望める。
(…あれ?来ない?)
リュートは違和感を感じ立ち止まった。そろそろ追ってきてもいい頃なのに、追ってくるどころか変化すらない。
木の影に隠れて様子を見る。しかし、いつになっても経っても姿を現さなかった。
「……」
リュートを大きな不安が襲う。少なくても様子見くらいはしてくるだろうと踏んでいた。ここまで作戦通りに進んできたが、ここに来て想定外なことが起こり焦ってしまった。
・今までの作戦はた偶然噛み合っていただけではないか。
・相手にはまだ隠された手札があるのではないか。
・そもそも作戦が読まれていたのではないか。
不安が募りリュートの頭に「相手が諦めた」などのポジティブな考えが思い浮かば無かった。
ザクッ!
不意に壁の向こうから謎の音が鳴った。
「…ッ!」
リュートは驚きビクリと身震いをする。『岩魔法』盾とショーテルを形成して構える。
その間にもザクザク音は鳴り続けている。
(…地面掘ってない?)
リュートは音に既視感を覚え、地面を掘っているのではないかと思えてきた。音が続くほどにその考えが固まっていく。
リュートは恐る恐る木の棒で突く。闇の壁をとおしているが、何か柔らかい手応えを感じる。
「…ッ!」
リュートが持っていた木の棒が何かに弾かれた。その場に何者かがいることを確信する。そこにいる者がアサシンであることは想像に難くない。
しかし、現状がどのような状態であるのかが分からない。いったん身を引き盾と剣を構える。
すると、向こう側から石が飛んできた。石は頭の上を飛び越えてあらぬ方向へ飛んでいく。
(もしかして落とし穴に…でも、おかしい)
リュートは相手が罠を仕掛けたところにいると気づいた。
それは『軟化魔法』と『座標魔法』を使った落とし穴のことであり、ぱっと見では分かりづらい底無し沼の構造になっている。罠に掛かったら地面に沈み込むのだが、脱出の難しいものではない。
改めて罠の上部を突くがぷにっとした感触がし、アサシンがそこに留まっていることが分かる。
何故そんなことになっているか分からないがアサシンが壁の向こうで身動きが封じられているのは確かである。
リュートは闇を跨いだまま木の棒で薙ぎ払いトドメをさした。
リュートには分からなかったが、アサシン常には『闇魔法』を発動させていた。そのため、追って来て罠を踏み抜いた際に『軟化魔法』が即座に霧散して地面が元の硬さに戻ってしまった。その結果、下半身が地面に埋まり身動きが取れなくなってしまったのである。
一仕事終えたリュートはホッと一息つき周りを見渡した。
「まだやってる…」
サリアのものであろうブレスが目に入った。
少し時間が経ちアサシンの生成した闇が霧散し晴れた頃、ブレスがぴたりと止んだ。
それを見て戦闘の終わりを感じたリュートは悪戯心が疼いてちょっかいを出したくなった。
(びっくりするかな?)
アトラトル(テコの原理を利用し槍をより遠くまで飛ばすための手持ちの投槍器)を形成する。槍をセットして最後のブレスの発射地点へと向かって投げた。
考え無しの悪戯であったがアフターケアもしっかりする。槍に釣られて人が来た時のために『軟化魔法』で落としを生成しする。武器を形成してしばらく身を隠しす。
すると、
シュシュシュ、プス、プス、プス
水で形成された手裏剣が無数に飛んできて周囲の木に突き刺さった。
「探したぜぇ~、リュート」
つい最近聞いた覚えのある声が耳をなぞる。
「うぁー…」
リュートは自身の軽率な行動を後悔した。




