エピローグ
異世界、大和の国。
ここは日本の文化によく似た発展をした、異世界の極東の島国である。
大和の国の城内、その地下室に『勇者召喚の間』と呼ばれる部屋がある。
進士は帰り支度を済ませて、異世界転移の魔法陣の上に立っていた。
そして、大和の国の姫サクヤの祈りによって、魔法陣が起動した。
「そろそろ定時だな。俺は残業はしない主義なんだ。サクヤ姫、ミハルさん、みんな。本当にありがとう」
「進士さん、やはり元の世界に帰ってしまうのですか?」
昨日のうちに別れを済ませたはずなのに、ミハルはまた涙ぐんだ。
「あぁ、大事な人が待っているんだ。俺は、君たちの事を大和の国を忘れない。いつも君たちの活躍を願っているよ」
「「勇者さま。これまで本当にありがとうございました」」
ミハルたちに見送られ、今度こそ異世界を救った勇者は転移魔法陣の光の中に消えていった。
--
山奥に建つ大きな洋館は、進士が勤務する会社の別荘である。
別荘の地下室には、異世界転移の魔法陣が設置されている。
魔法陣が光り輝き、気が付くと進士は現代に帰還していた。
その場所は、見覚えのある洋館の地下室だった。
そして、目の前には現代でお世話になった懐かしい家政婦の白上美春が立っていた。
「……お帰りなさい進士さん。無事に帰ってきてくれたんですね」
「ただいま美春さん。俺は大和の国を、あの世界をちゃんと守ってきたよ」
「お疲れさまでした進士さん。私は信じていました。進士さんがあの世界を救ってくれると」
そう言って、美春は目を潤ませた。
「進士さん、向こうの生活はどうでしたか?」
「みんないい人たちばかりだったよ。でも、やっぱり俺は美春さんの手料理が食べたいよ」
「本当ですか?今日からまた全力でお世話しますね」
「俺は、美春さんが傍にいてくれたらそれでいいんだ。全力でなくてもいいから、これからも一緒にいてくれないか?」
「はい、追い返そうとしても、もう遅いですからね……」
美春は、もう我慢できなくなって進士にぎゅっと抱き付いた。(ハッピーエンド)
--
登場人物紹介
大湊進士
一周目
大湊進士は、異世界召喚された勇者である。
戦闘スキルを一切持っていなかったため、一部では無能な勇者と呼ばれていた。
現代では、温厚誠実な性格で、協調性を大事にする有能なサラリーマンだった。
異世界では、会社員だった頃の経験を活かして周囲の協力を得る。
魔王軍を撃退し魔王城に到達するが、あと一歩のところで敗北した。
最後に勇者スキル「ルート分岐」に覚醒して、二周目のチャンスを呼び寄せた。
二周目
大湊進士は、働きすぎて人生に疲れたダメ人間である。
本人には一周目の記憶は無かったが、白上美春が彼の元に訪れてから運命が動き始めた。
勇者スキル「ルート分岐」を無意識で発動して、最善の選択肢を選び続けて世界を救った。
また、前世で美少女たちと結んだ「絆の力」で一周目以上の力を発揮することができた。
なお、進士の仕事が超絶ブラックなまでに忙しくなったのは、前世魔王の鬼龍院瑠璃が彼が勤務していた会社を買収し乗っ取ったせいである。おのれ魔王。
--
大湊進士のスキル(二周目)
意志疎通 :特定の対象と意志を疎通する(異世界の知的生物と会話ができる)
応 援 :ステータス値の一時的な上昇
勇 気 :一時的に最大値を超えて気力体力を回復する
(隠し) :スキルを隠す。解析スキルで見ると文字化けするときがある
ルート分岐:(隠し)運命の分岐点を繰り返して最善の選択肢を選べる。
拙い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。