10-3 美春の告白
山奥に建つ大きな洋館は、進士が勤務する会社の別荘である。
別荘の地下室には、異世界転移のための転移魔法陣が設置されている。
進士が地下室の転移魔法陣の上に座っていると、美春が地下室にやってきた。
「美春さん、接続実験はどうだった?」
「予想を上回る、とても困った事態になりました」
美春は泣き出しそうな表情をしていた。
「もしかして、勇者召喚の儀式が止められなかった?」
「もはや、勇者召喚の儀式を回避しただけでは、解決できそうにない問題なのです」
「どういうことだ?詳しく教えてもらってもいいかい?」
「その前にひとつ、お伝えしたいことがあります」
真剣な表情で進士を見上げた。
「な、なんでしょうか?」
「異世界には行かないで下さい。行けば進士さんは確実に死んでしまいます」
「確実に死ぬって?美春さんは、何を知っているんだ?」
美春は、しばらく迷ってから口をひらいた。
「私には現世に生まれるの前の記憶、前世の記憶があるのです」
「……えぇっ!?」
美春の告白に進士は目を見開いた。
「奇妙なことを言う女だとお思いでしょうが……やはり、こんな突拍子もない話は信じられませんよね?」
「いや、信じるよ。美春さんはこんなときに冗談を言うようなひとじゃないからね」
美春の表情は真剣で、進士に疑う余地は何も無かった。
「進士さん……ありがとうございます。今日は私の知っていることをすべてお話ししたいと思います。でも、聞けばこれまでどおりに私と接することができなくなるかもしれませんよ?」
「とても、大事な話なんだな?」
「はい、とても大事なお話です」
美春は頷いた。
「俺は、ずっと疑問だった。どうしようもなくだらしなくてダメ人間だった俺を、どうして美春さんが献身的にお世話してくれるのか。その答えもそこにあるのか?」
「はい、進士さんは覚えていないかも知れませんが、私は前世の進士さんにとてもお世話になりました」
「そうか、前世の俺のため……か」
そう考えれば、今までの美春の行動が理解できるような気がした。
「でも今は!私は、今の進士さんのために働くことが好きなんです。それだけは信じてください」
「あぁ、今さら美春さんの言うことを疑ったりはしないよ。美春さんの知っていることを教えてくれ」
見つめ合う二人。
美春が押しかけ家政婦として進士の家にやってきたときから始まった、一緒に暮らしたその時間は、かけがえの無い真実である。
現世で生きる二人の中には、まったく新しい現世で結んだ強い絆があった。
「わかりました。私が前世で見たことをお伝えします。話すと長くなりますのでスキル”情報伝達”でお伝えしますね」
そう言って、小柄な美春は進士を見上げた。
「倒れないようにぎゅっと支えてもらっていいですか?」
進士は、美春をきつく抱きしめた。
スキルの効果で進士の脳裏に美春の記憶が流れ込んできた。
それは、美春視点で語られる、異世界『大和の国』で奮闘したシンシとミハルの前世の物語であった。