Ex:11 魔王軍の侵攻(前世エピソード)
異世界、大和の国。
ここは日本の文化によく似た発展をした、異世界の極東の島国である。
魔王襲来から数日後。
勇者シンシは、大和の国の城内でサクヤ姫と対面していた。
サクヤは、黒目黒髪で仙女のように美しい二十代前半に見える女性である。
「国境付近を移動する魔王軍が発見されました。その数おおよそ一万。早ければ、明日の昼頃には大和の国に到達すると思います」
そう言って、サクヤ姫は目を伏せた。
「姫様、戦いは回避できないのでしょうか?」
「おそらく、魔王キルリ・ルリによる聖戦が発動しています。こうなっては、魔王が聖戦を解除するまで止められません」
「そうですか・・・」
「我々は、大和の国の総力をもってこれに立ち向かいます。ですが、魔王軍は我々の総力の約三倍。双方に甚大な被害が予想されます」
「わかりました。俺にできることがあったらなんでも言ってください」
「いえ、シンシ様。短い間でしたがご協力ありがとうございました。今夜にも送還の儀式を執り行い、元の世界にあなたをお返し致します」
「俺に、大和の国を見捨てて帰れと言うのですか?」
「あなたは、魔物の討伐を通じて、教会騎士団との架け橋となってくれました。また、あなたが発案してくれた無線通信機はこの戦いでも大いに役に立つことでしょう。でも、戦闘スキルを持たないあなたは、もう足手まといです。今ならまだ間に合います。素直に言うことを聞いてお帰り下さい」
「くっ・・・わかりました。少し考えさせて下さい」
シンシは頭を下げてお城から帰宅した。
シンシが宿舎に帰ると、三人の美少女たちが待っていた。
ニンジャのミハル、戦巫女ユキナ、魔法騎士アンネロッテである。
「シンシさん、魔王軍が攻めてくるそうですよ。正直、大和の国はかなり分が悪いです」
「さすが大和の国のニンジャだな。情報が早い」
「戦巫女の私は、教会より召集を受けました。教会騎士団で戦うことになりそうです」
「そうか、ユキナは教会のアイドルだもんな。アンネロッテは天空城に帰るのか?」
「いえ、私は神官派遣のご恩を返すため、サクヤ姫の指揮のもと戦います」
「そうか。これから忙しくなるな」
「はい。私も大和の国のニンジャですからお館様の元に帰ります」
「ミハルさん・・・俺と一緒に戦ってくれるんじゃないのか?」
「シンシさん。大和の国は危険です。早く元の世界にお帰り下さい」
「そうか、俺は役立たずか。やはり無能な勇者だな。こんなときに役に立たないなんて」
「ち、違います!シンシさんは無能なんかじゃありません!みんなシンシさんには感謝しているんです。心配なんですよ」
「ミハルさん・・・」
「そうです。私は、私たちはシンシさんのことが大好きなんです。あなたには本当にお世話になりました。もしも、あなたがいなければ、私たちはこの場に立ってすらいませんでした」
「ユキナ、そんなことを考えていたのか」
「だから、私たちはシンシさんにご恩を返したい。あなたの分まで戦って、勇者シンシさんの功績を後世に残したいと思ったのです」
「アンネさんまで・・・みんなありがとう。俺は、やはり元の世界には帰らない。俺はこの大和の国が、みんなのことが好きだ。俺は”この世界を守りたい”」
そのとき、大和の国全体を優しい光が包みこんだ。
勇者スキルの効果で大和の国全員のステータスが大幅に上昇、気力体力がいつもより多く増加した。
「シンシさん、これは?」
「どうやら、俺のスキルレベルが上がったようだ」
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アチーブメント達成「勇者の決意」
スキルのレベルが上昇します
スキルの効果対象が個人から、任意の団体・地域に拡大しました
意志疎通 :特定の対象と意志を疎通する(異世界の知的生物と会話ができる)
応援(覚醒):ステータス値の一時的な上昇
勇気(覚醒):一時的に最大値を超えて気力体力を回復する
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「これで、俺も皆の役に立てるかな?」
「もちろんです!」
シンシの言葉に、ミハルは嬉しそうに頷いた。
翌日の昼過ぎ。
大和の国は、兵士の数で約三倍以上優勢な魔王軍に対して総力戦を実施した。
この戦闘では双方に甚大な被害を出した。
大和の国も有能な人物を多数失う結果となったが、勇者スキルの支援を受けた大和の国が辛うじて勝利した。
この戦闘終結から翌日。
大和の国の城内でシンシは、大和の国のお姫さまのサクヤと対面していた。
「シンシ様。神託がありました。魔王を止めなければ世界に破滅が訪れます。もはや一刻の猶予もありません」
「これまで頑張ってくれた皆の意思を引き継いで、世界の破滅を阻止する。みんなその力を貸してくれ!」
「「はい!」」
シンシの決意を受けて、三人の美少女たちは力強く頷いた。
だが、その後の悲劇の結末を、彼らはまだ知らなかった。
R03/10/31
誰も読んでいないと思いますが、以後不定期更新になります。