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Ex:09 大和の国の勇者の力(前世エピソード)

 異世界、大和の国。

 ここは日本の文化によく似た発展をした、異世界の極東の島国である。



 ある日突然、普通の人間が闇に浸食されて理性を失う事件が発生した。

 闇に浸食されて変質した人間は、通称「変質者」と呼ばれていた。


 普通の人間は、変質者に近寄ることができない。

 変質者と接触した瞬間に浸食され、新たな変質者となってしまうためである。


 この日、シンシ達は教会騎士団と連携して、変質者の救助・討伐を目的に一斉検挙作戦を実施することになった。



 作戦本部は教会騎士団の一室に設置された。

 今回は、駄々をこねた大和の国の姫サクヤに対して、総司令の席が用意されていた。

「少々不満ですが、何かあったら頼って下さいね」


「サクヤ姫さま、ありがとうござます」

 今回の作戦発案者のシンシは、本部で作戦指揮を行う。


「それでは、大和の国の勇者の力を見せてください!」

 サクヤ姫の号令で作戦が開始された。



『西側3-1の居住区で変質者を発見しました』

 今回の作戦で新たに採用された無線通信機型の魔道具から、アンネロッテの声が響いた。


 自由に空を飛べる彼女は、上空から町の様子を随時報告してくれている。

 また、シンシの勇者スキル意思疎通の効果によって、西国の言葉が自動翻訳されていた。


「ミハルとユキナが向かっている。アンネロッテは監視を続行してくれ」


『了解した』

 アンネロッテは、積極的に町の巡視・巡回に協力していたおかげで、町の構造や地理をほぼ完璧に把握していたのであった。



 西側3-1の居住区では、複数の変質者が住民を追い駆けるようにゆっくりと徘徊していた。


「待ちなさいそこの変質者!」

 変質者を制止する凛とした声が響いた。


 変質者が振り返るとそこには、二人の美少女が立っていた。


 一人は、陽炎めいた燐光を発する日本刀を背負っていた。

 闇を祓う妖刀を扱うニンジャ=ミハルである。


「妖刀髪切り丸、抜刀!」

 ミハルは、変質者に素早く駆け寄り妖刀を一閃。変質者の闇を祓った。


 元の姿を取り戻して倒れる元変質者。だが、その体には傷ひとつない。

 闇を祓い、怪異のみを斬る妖刀髪切り丸の特殊能力であった。


「罪のない人々に危害を加えることは許しません!」



 そしてもう一人は、白い生地に紅色の刺繍が入った巫女服のような衣装を身に着けた美少女。

 状態異常の回復技能を持つ上級神官職の戦巫女ユキナである。


「かみさま。お力を貸してください」

 ユキナは、自身を守護するかみさまの加護を願った。


 軽く握った右拳に、放電の火花が走る。

 なお、戦巫女の状態異常回復能力は接触により発動する。


 一人の変質者がユキナに向かって近づいてきた。

「闇を、祓い給え!」


 ユキナの右拳が変質者に炸裂した。


 ユキナの状態異常の回復効果は、接触時の運動エネルギー量に比例する。

 変質者は打撃の接触部分から変質を回復され、元の姿を取り戻しつつ倒れた。


 その後、ミハルとユキナの活躍で変質者の救助活動は速やかに終了した。



 その後、周囲を警戒するミハルとユキナだったが、やがてふうとひと息。

 無線通信機を作動させた。


「変質した五名の救助を完了。ほかの住民に被害者はなし」

 ちなみに、この魔石の共振現象を利用した無線通信機はシンシの提案で開発された、この異世界では画期的な通信システムである。


 飛行能力があるアンネロッテが上空から索敵して、ミハルとユキナが地上で変質者を救助することができた。

 地道に足をつかって捜索していた教会騎士団とは段違いの効率であった。


『神官たち救護班が向かっている。作戦を終了。

 ミハルとユキナはアンネロッテと共に帰還してくれ』


 無線通信機から、作戦指揮担当のシンシの声が聞こえる。


「それだけ?わたし頑張ったよ」

 シンシの素っ気ない言葉に、ユキナは口を尖らせた。


『そうだな。ユキナ……よくやったな』


「シンシさん、わたしは上手くやれていませんでしたか?」

 ミハルの少し落ち込んだ声が聞こえた。


『いやいや、いつもどおり戦えていましたよ』


「では、もう少し褒めてください」


『シンシ、わたしの活躍はどうでした?』

 アンネロッテの声が割り込んできた。


『お前ら、この無線通信機は関係者全員が聴いているんだ。俺に何を言わせる気だ』


『「えぇー!?」』


 無線通信機からは、すでに作戦関係者達の含み笑いの声が聞こえている。

 シンシの隣では、サクヤ姫が肩を震わせて笑っていた。


『……早く帰って来い。好きなだけ褒めてやるから』


『「了解!」』

 無線通信機からは楽しそうな声が聞こえてきた。



 この日を境に、勇者シンシを「無能な勇者」と呼ぶものはいなくなっていた。

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