第4話:異世界召喚④
地下牢は、純がイメージした通りの場所であった。
いくつもの部屋が通路から鉄格子を通して中を見ることができるようになっていて、それ以外の面は全て固い壁で覆われている。
外を見ることは出来ない。
ひんやりと冷たい地面に、ここが地下であることを痛感させられた。
一個室にあるのは一枚のペラペラの布と手のひらサイズのお椀に入った水だけだ。
牢番が言うには、牢の中でも最悪の場所である、と。
普通の牢にはまだ毛布があったり食事が出たりトイレがあったりするらしい。
それほど純のしたことにされている罪は重いということだ。
純は牢番が気の毒な目で見ているが、ひとまず現状について考えることにした。
正直サーリオや騎士、そして同じ世界から来た雄人にたった数日しか一緒にいないが、それでも裏切られた傷が大きく、考える余裕なんてない。しかし何かしていないと泣き喚くことしかできそうもないのだ。
よく考えれば不自然な点が多かった。
疑問を浮かべても、すぐに自分で否定していた気がする。
そしてなにより今まで酷かった頭痛が消えた。
考えられることは、誰かが自分を操っていたということだ。
妙なことを考えれば直ぐにその考えを打ち消し、自分たちが物事を進めやすくするために。
魔法。元の世界ではおとぎ話に出てくる超常現象。
なぜ、喜んでいたんだろうか。
魔法を使えるとはしゃいだんだろうか。
こんなもの、恐怖の対象であるはずなのに。
ガタガタと体が震えだし、止めるためにギュッと自分の体を強く抱き込む。
寒さからかもしれない。徐々に日が沈みだしている。
そうだ、これは寒さだ。
決して、魔法や人間が怖くなったからじゃない。
*
翌日。
精神的疲労で眠ってしまった純は、騎士によって起こされた。
彼らは純の護衛や見張りをしていた騎士ではなく初めて見る顔だ。
そのことに純はひどく安心した。
「こんな状況で寝るとは、随分とずぼらな娘だな。」
棘のある言葉を投げかけられて、もしかしたら彼らは自分にこんなことをしたくないから来なかったのではないか、と思ってしまったからだ。
連れていかれたのは玉座と呼ばれる場所。
来る前に手を縄で縛られた純は、騎士に引っ張られるがまま部屋の中に入り、ドンッと押されて地面に膝をついた。
一人の騎士が地面に剣を鞘に入れた状態で強く打ち付ける。
続き他のすべての騎士が同様の動作を行った。
「ただいまより、異世界人、ジュン・カツキの罪状を告げる!」
跪いた状態の純は、顔を上げる。
随分と高い位置に国王や宰相、そして王女ミエルリーナと勇者である雄人がいた。
遠くて見えにくいけれど、確かに見えたのは国王の歪な笑顔。
自分の考えに確信を持てた瞬間だった。
だからと言って何かすることは出来ないけれど。
読まれた罪は身に覚えのないもの。しかしまた魔法がかかっているのか、この部屋に入った時から声を出そうにも出せそうにない。
「―—よって、罪人ジュン・カツキは“嘆きの森”への追放とすることをここに告げる!」
瞬間、また騎士たちが一斉に剣を地面に強く打ち付けた。
国王が言う。
「ジュン。余は悲しい。異世界より参ったそなたが罪を犯したことが。二人の愛する若者の仲を違えようとすることさえしなければ、そなたがこのような目にあうこともなかっただろうに……。」
そして宰相が言う。
「最後の善意として、一つお教えいたしましょう。異世界より来たれし者は、元の世界との大きな違いに体が徐々に内側から崩壊を始めるのです。強制的に次元を超え、潜在的な能力を引き出すのですから仕方のないことでしょう。しかしこの崩壊は簡単な方法で止めることが出来ます。それは、この世界の人間と“関係”を持つことでございます。身も、心も。」
ただただ茫然と言葉を聞いていた純は、宰相の言葉に驚愕した。
雄人を見れば、ミエルリーナが彼の腕に身を寄せ、頬を染め、雄人も彼女の髪を優しく梳き――――。
あぁ、気持ちが悪い。
雄人の自信満々な表情も、ミエルリーナの勝者の表情も、宰相の嘲笑も、国王の面白がるような表情も、すべて。
「神は下された。代弁者である国王、ドラムスターク・ドント・ロッケンベノークがここに宣言する。この罪人、ジュン・カツキを国外追放とする!」




