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間違いで召喚された一般人女子高生はそれでも必死に生き続ける  作者: 三木 べじ子


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第39話:始まりの鐘②

本日は2話続けての投稿です。読み飛ばさないようお気を付けください。

 専門魔法講義。魔法に関して、実技・座学の両面を学ぶ。純の担当魔法員であるヒルデガルトと二人きりで行われる講義は、始め息苦しさを感じることが多々あった。自分の立場を理解しなさい、慎みを持ちなさい。何度も繰り返される言葉にうんざりするが、今はもう慣れたものだ。


「魔法は、体内のエネルギーを利用しています。しかしエネルギーは命に直結しており、使い過ぎてしまえば強制的に体は眠りにつくことになるのです。我々聖魔法使いは前線に出ることは非常にまれであり、基本後方支援に徹します。怪我をした者を癒し、回復を促す。そして再び万全の状態で戦えるよう、支えることが私たちの役目。己の魔力量を理解できず、戦いの場に置いて足手まといとなることは耐えがたい恥です。そうならないよう、日々鍛錬を行い、自己理解に努めることが、一流の魔法使いとなる近道であり、ただ一つの道なのです。ジュン、貴方も自分の立場を理解して、慎みを持ちなさい。日々研鑽を積むことで、己を高め、身も心も強くなり、引いては国の利となるでしょう」


 ニコリとも笑わないヒルデガルト。クスリとも顔を動かさない純。二人きりの時間が多く設けられるため、仲良くなるだろうと思う教員生徒は皆、開いた扉から様子を見ては顔を引きつらせて帰っていく。


「質問があります」

「学習意欲が高いことは素晴らしいことです。どうぞ」

「睡眠モード…眠くなった後に、無理やり魔法を使うことはできますか?」

「眠りを拒絶し、無理やり魔法を使用することは、可能です。過去にも自身の魔力量以上の魔法を使った魔法使いは存在します。ですが、エネルギーは命に直結している。強制的な睡眠は、無意識に貴方の体を守る仕組みと言えます。命を対価に使う魔法は、やがてその者自身を滅ぼすことになるでしょう。…そうならないために、我々は学び鍛えるのです。よろしいですね」

「…はい。ありがとうございます」


 真面目なヒルデガルトは、担当魔法員としては非常に優れていた。純の質問にも簡潔に答え、真摯に向き合って、魔法の使い方を分かるまで教えてくれた。とても感謝している反面、純は彼女を面倒くさいと思うことがあった。


「そう、魔力量の理解は非常に重要なこと。しかし何より、魔法を使う際に魔力を如何に無駄なく使うか。これはとても重要な問題になってきます。微細な魔力コントロールは少量の魔力量保持者と、多大な魔力量保持者の差を埋める…。そう!ジュン!貴方の魔力コントロールは素晴らしい!触れただけで伝わる繊細な魔力使い、その類稀なる才能は大いに誇るべきこと!この国の半数以上は世界平均よりも高い水準の魔力を保持してるものばかりで、彼らは一様に、繊細な魔力操作を行わない…。どころか、魔力量を増やすことばかりを気にする始末…ッ!しかし、問題は違うところにあります!彼らが、そして平均以下の人たちも共に、優れた魔力コントロールを行うことができるのならば、我々は魔法使いとして更なる高みへと昇れる!私はそのために、貴方の技術を伝え広め教えるべきだと思うのです!」

「…ちかい、です…」


「これは失礼いたしました」と距離を取るヒルデガルト。彼女は魔法のことになると熱くなる質であった。いつもの冷静沈着な姿はどこへやら、魔法関係では我を忘れる姿を始め見た時は、大いに距離を取ったものである。


「申し訳ありませんが、私は自分のことに手一杯で、他の人の面倒まで見られる暇はないんです。すみませんがお断りします」

「そんなこと言わずに!…に…いえ、1時間で結構ですので!私に教えて頂けませんか?」

「……それ、1日だけの話ですか?」

「いえ、毎日です」

「無理です」


 いい加減諦めればいいのに、何度も何度も頼み込まれるのは、同じことを言われるよりも非常に面倒くさいことだった。引き留めようとしてくるヒルデガルトを置いて、純は足早に教室を後にする。

 グルエフ公爵家での一件の後、純は王城で暮らしている。ジェネヴィーヴから追放された話を聞いた後、寮に戻ろうとした純だったが、ヨセフに止められた。


「確かに彼らは爵位剥奪の上、国外追放となったよ。でも、まだ確実に安全とは言えなくてね。彼らは公爵という高い地位を持っていたし、それなりの伝手がある。いつどこから国内に入って来るとも分からない。危険分子がどこに潜んでるとも分からない今、ここ以上に安全な場所はどこにもないと思うんだ」


 自らライオンの腹の中へ入るのは嫌だった。しかし、そこにいれば、搾取はされても最低限の安全は守られる。まだ襲われた恐怖が新しく記憶にこびり付いていた純は、王城から学園へ通う生活を続けた。

 変わったことはそれだけではない。ここ一か月で、帝国内は戦争に向けて準備を行っていた。


 ”嘆きの森”の先にある国、ロッケンベノークが攻めてくる、という噂が広まったからだ。

 嘘だと笑い飛ばすには、怪しい行動が多すぎた。学園には領地を保持する貴族子息が多く通うため、秋季休み間近であっても浮足立つ者はおらず、どこに行っても緊張の糸が張り巡らされている。


「兵を増量しなければな。ロッケンベノークに攻め入られて負ける我が領じゃないけど」

「秋季休みに遠出する話もなくなったよ。残念だが、仕方ない」

「攻め込まれるのはいつだろうか」

「まだ先の話だろう…。半年以内には仕掛けてきそうだよな」

「外交で牽制はしてるのでしょう?それでも引かないなんて…何かあちらで問題でも起きたのかしら?」

「侵攻にしては無理なものよね。他国と同盟を結んだという話も聞かないし」

「我が国に戦争を挑みたい怖いもの知らずの国は少ないでしょうから、当然でしょう」


 周りから聞こえる戦争の話を、どこか他人事のように聞き流していた純は、城で出される美味しいお菓子のことを考えていた。だから目の前に現れた人物に気づくのが遅れてしまった。


「ロペロス、さん…」

「…お久しぶり、です…。あ、あの、今って、お時間、よろしいですか…?」


 人目のある場所で拒絶することもできず、純はヘザーに連れられて廊下から少し離れた庭へ移動した。現在は講義の合間時間であり、そこまでの時間はない。今までずっと避けてた純は気まずかったが、短い時間だからと受け入れた。


「えと、その、わ、私、何かしました、か?」


 伺い見る目に、純は仕方ない反応だと思う。突然理由を説明されることもなく距離を取られれば、自分が何かしたと思ってしまう。


(ロペロスさんが、私に何か直接的にしたわけじゃない…。ただ、私が、信じられなくなっているだけで…)


 しかしそれを伝えても良いものか、純には判断ができないのだ。


(避けて遠ざけて、でも結局、友人になれた人を少しでも繋ぎ止めておきたい…んだよね…)


 確証はないからと誤魔化し、自分のために行動する自分が嫌になる。俯く純の手を、ヘザーが握った。冷えた手だった。


「わわわ私、今までちゃんとした、ゆ、友人?ができたこと、なくて…。か、家族からは、大切にされてますけど、でも、ど、同学年の、気を抜ける相手って、いたことなく、て…。うまくできないこととか、きっと、苛々させてしまうこととか、沢山あると思うんですけど、でも、私は、私は、ジュン、さんと、と、と、友達で、いたいんです…!だから、何か私に至らないところがあれば、言って、下さい!頑張って治すので!」


 手が震えていることに気づいて、顔を見て見れば、ヘザーは顔を真っ赤にしている。


「…皇太子と、一緒にいるところ、見ちゃって…。それで、もしかしたらって、疑ってたの。貴方の態度とかが、いつもの感じと違ってたし、仲いいのかなって、思っちゃって…」


 言ってしまった。見てしまったこと、疑っていたこと。もし彼らが繋がっていて、始めから純を騙していたと言われたらどうしよう。恐怖のまま顔を上げられない純は、ヘザーの驚いた声に顔を上げた。


「へ、は、あ、で、殿下ですか?!殿下とは、幼い頃から、い、お、親同士仲が良くて、よ、よくお会いしていたものですから、あまり緊張せずにお話しができると、言いますか…。わ、分かりますよ、疑いたくなるき、気持ち、分かります…。で、ですが、信じて下さい!私と殿下は、お、お、お付き合い、してませんので!」

「…………」

「だ、第一、身分差も、そ、そうですけど、わ、私、別に、殿下の顔、好みじゃないんです!もっとこう、お、男らしい方が好きです!それに殿下って、ネチネチしてて言葉遣いちょっと間違えただけで「それはこう言うよね」ってわざわざ笑顔で訂正してくるのとか面倒くさいしいつもは笑顔でなんでも僕完璧にこなせます~感出しておきながら変な所でヘタレなものですから私に押し付けたりして本当にすっごく面倒くさいんで、す…ハッ!いいいい今のは、どどどどうかご内密にぃ~!」

「フフッ」


 笑う純に、ヘザーはぽかんと口を開ける。その顔が更に純の笑いを誘う。


「あの人、ヘタレなんだ…」

「は、はい!ヘタレです!すすすすっごいヘタレです!」

「でも確かに、ちょっとしたミスとか指摘されそう」

「面倒くさいです…」


 眉を下げて項垂れるヘザー。


(疑って、今までずっと避けてた私がバカみたい。ロペロスさんが、嘘を吐いてるようには見えない。大丈夫。彼女は信じても、大丈夫)


 講義が始まる時間が迫る。「戻ろ」とヘザーの手を引いて、純は教室に戻ろうとした。目の前にバッカスが現れて道を塞がれてしまう。彼の表情を見るに、意図的ではなかったらしい。驚いた表情はしかしすぐにいつもの笑みに変わると恭しく胸の前に手を添える。


「オォ!なんとイウ偶然でござイましょウか!オ久しぶりでござイます!」

「クラス一緒ですけどね。それじゃ」


 何言ってるんだという呆れの目を向けて横を通り過ぎようとしたが、今度は意図的に道を塞がれる。


「ジュン様は、ご存じですか?ロッケンベノーク、がこの国に戦争を仕掛けようとしているお話しを」


 反応しないように心がけていた純だったが、ロッケンベノークという単語に思わず肩が動いてしまう。悔し気な表情が出ていたらしい、笑みを深めたバッカスは更に距離を詰めてこようとした。純との間に、ヘザーが入り込んでこなければ。彼女が入ってきたことで、一歩後ろに下がることになるバッカス。


「オやオや。これはこれは」

「…お久しぶりでございます、バッカス殿下」

「はイ!先程の授業ぶりですね!こウして学園でオ話しすることができて嬉しイです!何かオ困りごとはアりますか?オ探しの品はござイますか?オ買イ求めの品がアれば、何でもご用意イたしますよ。勿論、対価はイただきますけどね」

「ご配慮感謝いたします。もし機会がありましたら、伺わせていただきます」

「オォ!色よイオ返事をイただけて、とても嬉しイです!ぜひによろしくオ願イします!」


 グッと近づくバッカスとヘザーの距離。耳元に寄せられたバッカスは囁いた。


「ワタシも優れた忠犬が欲しイものですね」

「……ご冗談を」


 笑って身を引くバッカス。近くにいた純は言葉は聞こえていたが、意味は理解できずに首を傾げる。同じように首を傾げたバッカスは笑みを絶やさないままだ。


「ジュン様も!もしオ困りごとがアりましたら、何なりとオ申し付けくださイませ!ものでも、ことでも、貴方様がオ望みの物は全てご用意イたしますよ」


 今度通り過ぎても邪魔をされたり引き留められることはない。逃げるように教室に入ったが、同じクラスなのだ、結局はバッカスも同じ部屋に入った。

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