第1話:異世界召喚
しばらくシリアス続きます。
それは唐突に訪れた。
希望の高校に入学して早六カ月。
私、香月純は友人と呼べる人もできて美術部に入り中々の賞を取るなど、高校生活を満喫していた。
その日もいつもと同じ、楽しく飽きない一日になるはずだったのだ。
友人と一緒に家まで歩き、たまたま帰宅途中だった父母を見つけたから。
「また明日」と友人に告げて父母の元へと走った。
彼らも私に気づいたようで笑ってお帰りと言ってくれる。
なんて幸せな日常。
当たり前の幸福につい笑みがこぼれる。
だから返そうとしたんだ。
ただいま
口が言葉を発するために開いたが、その言葉が音となることは無かった。
地面に浮かび上がった奇妙な円はまるで魔法陣のようなもの。
私の体を囲むように描かれたそれは美しく自ら発光していた。
呆然としていた私は必死にこちらを呼ぶ父母や友人に気づき手を伸ばしたが。
届く前に眩い光に包まれて、意識が遠のいていった。
***
「ん…」
ひんやりとした感触に純の意識が浮かび上がる。
よく眠った時のような爽快感はない。どちらかといえば、徹夜明けの感覚に似ている。あの自分の意思をどうにもできない感覚に。
グラグラと揺れる頭を必死に持ち上げ、現状を確認しようとした。
意識が途切れる前のあの円形の絵は何なのか。大切な人たちは無事なのか。
瞬間耳に入ってきたのは割れんばかりも拍手と喝采。
純は何がなんだか分からないまま呆然としていた。
しかし目の端に自分と同じ状況の人物ーー近場の高校の制服を纏った男の子がいることに気づき内心ほっとした。
見知らぬ場所に一人だけ。これ以上に怖いことはない。
「…じか……ぃ世界転移なのか…?…ートゲット…?!」
何やらぶつぶつと呟いてはいるが。
するとキラキラした服をきた男が近づいてきた。
ニコニコと胡散臭そうに笑いながら。
(ん?あれ?私今なにを考えた?)
胡散臭そう?いや、さわやかな笑みだ。
「ようこそ、異世界から来たれし者よ!余はこの国の王。ドラムスターク・ドント・ロッケンベノークである!」
よろしく。差し出された手を男の子と純はそれぞれ取り、立ち上がった。
まだ頭が痛い。
そこでようやく周りを見ることが出来た。
そこは体育館ほどもある広い場所で、魔法使いのようにローブを身に纏った人間から豪華絢爛に着飾った人間まで多くの者で溢れかえっていた。
肌がピリピリする。
期待と切望。
そんな感情が強く伝わってきて、知らず肌を撫でていた。
王は騎士や側近と思われる者を側に奥ーー水晶玉のようなものがある場所へと歩き出した。
二人も慌ててついていく。
道すがら王は訪ねた。
「では異世界の人よ。余にそなたらの名前を教えてくれるか?」
「は、はい!俺、菊池雄人って言います!あっ、ユウト・キクチか。17です!」
「私はジュン・カツキです。あの、何で私たちはここにいるんですか?渡り人ってなんですか?」
聞かなければ。知らなければ。このままではまずい。
(いや、何もまずくない。何も知らなくていいの。)
頭が痛い。ぐっと立ち止まると、心配そうに鎧を身に着けた騎士が駆け寄ってきた。
大丈夫だと告げ、同じように立ち止まっていた王たちに追いつく。
「ハハハ、ジュンは知りたがりの子供のようだな。なに、心配せずともきちんと教えてあげよう。宰相。説明を。」
王の傍らに立っていた眼鏡をかけた男の人。その人が宰相と呼ばれる人だった。
彼は王の命令に短く返事をした後すぐに、なぜ私たちがここに召喚されたのか、これからどうなっていくのかを説明してくれた。
「貴方方は我らによって召喚された勇者様であります。勇者様とはすなわち魔に名を連ねる者たちを排除し、この世界に安全と幸福をもたらす存在なのです。これからはまず前方に見えます“測定水晶”でお二方の能力を調べ、我が国で修練を積み、そして最終的には魔王を倒して頂きたい。もちろんわざわざ異国より参ったのです。心細いこともあることでしょう。勇者様の心が健やかであるために、我々誠心誠意お仕えする所存ですので、どうぞご安心を。討伐が成功した暁には、勇者様の願いをなんでもかなえて差し上げます。財でも富でもなんでもかまいません。もちろん、元の世界に帰りたいと仰るのなら、お送りいたします。」
一礼し、説明の終わりを告げた宰相に、王は満足気にうなずいた。
「そなたたちは我らの命の恩人なのだ。どうかこの国のことは第二の母国だと思って伸び伸びと過ごしてくれたまえ。」
勇者。能力。そして魔王。
ファンタジ―の世界に入り込んでしまった興奮に、二人の目はきらきらと輝く。
だが純の頭痛は無くならない。
「さぁ、まずは“測定水晶”でそなたらの能力を調べてみよう。なに、すぐ終わる。」
ふと見えた宰相は、小さな声で何かをつぶやいていた。
「本当は、一人だったはずですが………。」
一人だったとは、どういうことだろうか?
しかし疑問はすぐに消える。大きな歓声があたりを覆いつくし、慌てて顔を上げた先にあったのは、きらきらと光る小さなウィンドウ。
突然現代感が出てきたと思ったが、良く見てみると“測定水晶”なるものが出している光だ。
そこには日本語が書かれていた。
『名:菊池雄人 年:十七 職業:勇者
属性:風・火・水・土・空間
体力:897
魔力:5690』
まるでゲームのステータス画面のようだ。
そして彼の能力は素晴らしいようで、「魔力5000越え……?!何十年も修行した魔導士でもようやく行くか行かないかなのに………。」「四属性に空間も、だと?歴代勇者の中で最も才能を秘めている!」「素晴らしい!我らが勇者の誕生だ!」と歓声が止むことはない。
雄人もまんざらではなさそうで、嬉しそうだ。
次は純の番である。
勇者の次は一体どうなるのか。そんな期待が押し寄せる。
「がんばれ」と雄人からの声援を受け、ズキズキとひどくなる頭痛に耐え、純は“測定水晶”へと手を伸ばす。
光が周囲に広がり、現れた光に書かれていた文字は。
『名:香月純 年:十六 職業:一般人
属性:聖
体力:615
魔力:500』
「…………え」
辺りは一瞬で静かに、冷ややかになった。
私自信シリアス書いてて辛いのでなるべく早くシリアスシーン終わらせます_:(´ཀ`」 ∠):




