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第13話:帝国③

かけられた水とは違う赤い水分が、顎を伝って地面へと落ちていく。


副長に剣で刺されても死ぬ。体の崩壊を止めなくても死ぬ。

どうしようもない状況に笑うしかない。

それでも生きるためにはどうにかしなければいけないのだから。

狼狽える三人と、純から目を離さない副長。

殺されることを覚悟して、純は鎖から腕を抜き、すぐさま自分に魔法をかけようとする。

止めたのはやはり副長だった。

右腕を捕まれ壁に叩きつけられ、息が詰まる。

だが気にしている時間はない。

この体の崩壊をすぐに治さなければどうなるのか。

時間が経てば治療をしても治らないのか。侵食していくように徐々に広がっていくのか。

不確定な部分が多いからこそ、早く治さなければいけないのだ。

震える体を叱咤し、空いた左手を胸に当てて治癒魔法を使う。


破壊しかけた場所は肺と右足の血管。

二か所を集中的に治していると、周囲が静かなことに気付き、目を開けて見れば、驚愕したように凝視してくる副長がいた。

もしかしたら人間だと分かってくれたのかもしれない。

きっと理解されないと、無駄なことだと思って言わなかったが、やはりずっと悪魔だと思われるのは辛い。


すぐに破壊箇所の治療に集中し、何とか今回の崩壊も乗り切った純。

しかしほっと息を吐いている暇はない。

まだ呆然と立ち尽くす副長の手から無理やり剣を奪い、捕まれている腕をひねって後ろから、副長の首筋に剣を突き付けた。


「動かないで。動けばこの人を切る。」


それだけで三人には十分だった。

ただ唸るだけで、動こうとはしない。

純は彼らに背を向けないようにして牢を出たあと、奪った鍵をかけて彼らが出られないようにした。

そのままを早歩きで通路を進む。

ただロッケンベノークのように他の囚人を見ることは無かった。


しばらく歩いたが、一向に外へ出る扉が見つからない。

階段をいくつか登ってみたりもしたが、広すぎて全くわからない。

そろそろ体力も尽きそうだった。

荒い呼吸を繰り返す純に、黙っていた副長が口を開く。


「……そこの通路を進んで右に曲がれば、外に出る扉があるはずだ。」


「黙って。貴方のいうことを信じるわけないでしょ。」


「だが信じなければ、一生ここから出られないと思うが。それにこのままずっと歩けば、やがてほかの兵に見つかることになるぞ。そうなればまた牢屋行きだ。」


「………………。」


だがそう簡単に信じることもできないのだ。

彼は純を殺そうとした人間であり、今も簡単に殺すことが出来る人間だから。

渋ったものの、「………分かった。」と頷く。

副長の言う通りに進み捕まっても、このまま動き回って捕まっても、結局同じ結果にしかならない。

ならば少しでも望みのある方に賭けてみよう。


純は副長の腕をつかんだまま、彼が言った通りの道を進む。

誰もいない中、二人の足音と純の荒い呼吸音だけが響く。

たどり着いた扉を、純は副長に開けさせた。

開いてすぐに殺されてはたまらない。


鉄でできた扉は、見た目通りギィ……と鳴りながら開く。

その先にあったのは、大きく豪華な広間でも、待機している兵たちでもない。

少し伸びた草が広がる場所だった。

上を見てみれば夜空が広がり、月や星が見える。


外に、出ることが出来たのだ。


ふらつきながらも扉から身を乗り出して周囲の状況を確認した純は、とりあえず兵がいないことに息を吐く。

そしてずっと無言の副長をどうするべきか考えた。

結果。


「……貴方はもう必要ない。戻るなり兵を呼ぶなり、好きにすればいい。でもこの剣はもらうから。」


ここに置いていくことにした。

兵を呼ばれたらきついが、どこか純一人だけでも隠れる場所くらいあるだろう。

一日二日程度なら水だけで平気だ。

何か言われるかもしれないと思ったが、副長は何も言わずにただ純を見るだけ。

一刻も早くこの場を離れたい純は、あの牢の鍵を副長に投げて、すぐに扉とは正反対の場所へと踏み出す。


しかし次第に傾いていく体。閉じていく瞼。


「な、んで……?」


それは魔力切れの時の感覚だったが、純は魔力切れを起こさないギリギリの魔力しか使っていないはず。

なのになぜ?

気づかないうちに魔法を使っていたのだろうか?


(ダメ…今ここで倒れたら、殺される…)


純の意識と反対に、体は魔力回復のための準備に入る。


(ここまで生きてきたのに…)


悔しくて堪らないが、どうすることもできない。

倒れていく中お腹に圧迫感を感じたが、その理由は分からなかった。

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