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第11話:帝国

ジョセフが教えてくれた帝国までの道は、この魔物をひきつけないようにする道を真っすぐ三日ほど歩いた先だという。

三日分の食料と服、そして短剣や縄など細々としたものも貰い、とりあえず生きていける。

魔石を売ったことで得たお金はそのままジョセフたちに食事代だと言って渡したのだが、「命を助けてもらった恩返しだから」と言って受け取ってもらえなかった。

よってお金もある。


その後も魔物を数匹倒しながら進み、四日後。


純の眼前には巨大な王国があった。

高い丘の上から見下ろす形になるはずなのに、最端まで見ることが出来ないほどの面積。

そして何よりも目を引くのはお城だった。

遠目からでも美しいその見た目は、近くで見るとまた一味違うものになることだろう。


もっとじっくり見たかったが、そろそろ日が沈みそうだ。

シャロンが言うには、帝国には正門と裏門からしか国の中に入れないらしく、その場所以外は高い壁で囲まれていると。

確かに、二つ目の門は確認できなかったが、それ以外は全て高い壁に囲まれていた。

そして門は六時以降、緊急事態でない限り開かないらしい。


なんとかして間に合いたいと思ったのだが、途中魔物と遭遇。

結果純が門の前にたどり着いたときにはすでに閉まっていた。


これは明日まで待たなければならないようだ。


再び森の中に戻り、慣れた手つきで火を作る。

ジョセフたちからもらった一食分をさらに四分割し、内一つを食べる。

この四日の食生活であるが、安心だとわかっているものを食べれるだけで精神的にも身体的にも楽になれる。

食べ終わって、ユラユラと揺れる炎を眺める純。

ふとフィーロの言葉を思い出した。


「良い?ジュン。帝国はね、今、悪魔を探しているから、すっごくピリピリしてるのよ。だからもし、門が開いているうちに入れなかったら門の近くで寝なさい。森の中で寝ちゃだめよ。森はね、帝国の兵士が悪魔を探すために巡回しているはずだから。」


この時、悪魔が存在するのか…と驚いたものだが、今思えば純は危険な状態である。

慌てて火を消し、周囲の音に耳を澄ませる。

何もいない。気を抜こうとした瞬間、少し遠くの草がカサッと音が鳴ったのが聞こえた。

純は荷物を持って身を低くする。


何か、いる。


意識をそっちに向けていたら、次は後ろの方でもカサッと鳴る。

やがて様々な方向から音が聞こえ始めた。


「………」


どうやら囲まれているらしい。


純は考えた。どうすれば現状を突破できるのか、と。

音の感じからして、四足歩行の魔物ではないことは確かだ。

おそらくフィーロが言っていた帝国の兵士だろう。

純が人間だと気づいてくれるのなら良い。


しかし悪魔やスパイなどと思われたらどうなる?

最悪殺されてしまうかもしれない。


つっ……と冷や汗が流れる。


現状を嘆いている暇はない。

純は目を閉じて覚悟を決める。

徐々に大きくなっていく足音によく耳を澄ませ、音が無い場所を探し、近づいてきた瞬間を狙って走り出した。

月明かりに照らされ見えたのはやはり鎧を身にまとった兵士。

後ろから「逃げたぞ!」「捕まえろ!」という声が聞こえるが、必死に走った。

彼らは鎧を付けているはずだから、身軽な純よりも遅いはずだが、徐々に足音は大きくなっていく。

思えばこの世界には魔法があるのだった。


「っ……」


悪態をつきたい気持ちを抑え、足を動かす。


やがて少し開けた場所に出た。月明かりが純を照らす。

もしかしたら人間だとわかってくれるかもしれない。

後ろを向いて兵士たちを待つ。

そして現れた兵士の数は六。

きっと彼らに切りかかられたら、即死だろう。


震える体でなんとか踏ん張り、純は警戒している兵士たちに話しかける。


「私は、人間です。皆さんが思っているような、悪魔ではありません。」


しかしまだ警戒しているようだ。一人の手が腰に刺さっている剣に置かれる。


「………悪魔であるならば、大抵そう答えるだろう。」


先頭の人が突然話し出した。


「そうして我らをだまし、国民の生活を脅かす。逆に問うが、お前が悪魔ではない証拠はどこにある?悪魔や魔物、魔人。それら魔に名を連ねる者たちは、総じて深い闇の髪色と血のような瞳を持つ。だが身目を変えることが出来る奴がいることは分かっていることだ。つまり、今見えているお前の瞳は黒いが、魔法を解けば赤になるかもしれないということだ。さぁ、お前は自分が人間だと、俺たちに納得させられるだけの証拠を持っているのか?なぁ、悪魔。」


証拠?そんなものはない。

チャキッ

剣の音が響く。


どうすると、脳だけが動く。

さらに逃げるか。恐らくすぐに捕まるだろう。

必死に説明をして納得してもらうか。こんなにも疑っている人間をどうやって説得するのだ。

それか、死にものぐるいで立ち向うか?


(……いや、現実的じゃない。武器を持ってない私に勝ち目はほぼない。)


それに、人間として、それは極力避けたい。


最終手段だ。


兵士たちと純。

両者一歩も動かず目を離さず。

誰かが痺れを切らすのを待っていた。


ふと強い風が吹く。

思わず目をつむった純は、後ろにゾワっと何かを感じた。

振り向こうとした瞬間。


「残念だったな、悪魔」


純の意識は薄れていった。

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