心のこもった願い
「わらわはバビロナから手を引いたものの…自分の愚行の後悔に苛まれ…ここで眠りに就く事にした。そなた達は精霊となって朽ち果てた王朝を忘れ…自然界で幸せに暮らしているものと思っておった…
そなた達には本当に迷惑をかけた…わらわを許してくれぬか…」
泣き崩れていたジーニャは必死に平静を保ってマザー・ハーロットの前に跪いた…
「マザー・ハーロット様…私達を精霊として蘇らせて頂いて本当に感謝の言葉もございません…
ただ…我々はあなた様が察しておられる通りもう一度…あのバビロナで魔法使いとして暮らしたいのです…どうか願いを聞き入れては頂けませんか…?」
「ジーニャとやら…わらわは…怖いのじゃ…」
「マザー・ハーロット様…?」
「今のバビロナにはそなた達…精霊だけが棲んでおる…精霊とは自然界のエレメントが形を成し、生命を得た存在…
それ故に魔法使いが魔法因子と呼ぶエレメントを持つ自然がバビロナには豊かにある…
この世界から失われつつある自然を巡ってまたバビロナが狙われるような事が起こらんとも限らん…容易に歴史を戻すような事は…」
「大丈夫や!」
マザー・ハーロットに向かって大きな声で叫んだのは…ジーナだった。
「精霊の姐さん…ウチら魔法使いが精霊の皆さんに昔…ご迷惑をかけてしまった事…こちらこそ姐さんにお詫びしてもしきれん…」
「ジーナ…」ジーニャ…そして優也達は彼女をじっと見つめる…
「でもな…ウチ…海を超えて信頼できる大切な人を見つけて…その人とまたバビロナに帰ってきて…
素晴らしい仲間にも巡り逢えて…一緒にバビロナを狙うヤツと闘って…分かったんよ…
この人達となら…昔のバビロナよりもっと…
シャブリヤール様が望んだ以上の素敵なバビロナが築ける…
精霊と魔法使いがもう一度仲良く暮らせる素晴らしい国が…
姐さん…お願いします…どうか…どうかウチらの望みを叶えて下さい…」
不作法な言葉かもしれない…でも心のこもったジーナの願いにマザー・ハーロットは言葉を失った。
優也も二人の純粋な想いに心を打たれて黙ってはいられなくなった…
「僕からもお願いします…どうか二人の望みを…」
「うん?そなた…魔法使いでは無いな…」
「はい。僕は…人間界の者です…」
「何!…人間とな…!魔法使いと袂を分けたのでは無かったのか?」
「昔…お互いの種族が決別してしまうような事があったと伺いました…
でも縁あって僕は妻のプラティナと出逢いました…
そして二人の子供に恵まれて今はこの世界のお義父さんとお義母さん…仲間達や他の皆さんにも祝福して頂いております…
種族なんて関係ない!問題は自分が相手を認め、相手にも認めて貰えるよう努力する事だと僕は思います…」
「ダーリン…」優也の言葉にプラティナは微笑む…
マザー・ハーロットは優也の顔を…眼を黙って見つめた…
「ホッホッホッ…」
彼女は突然笑い始めた…
「なるほど…そう言う事だったか…
分かった…但し条件があるぞよ…」
「…条件…ですか…?」