紫色の煙
「じゃあ…殿…」「…うん」ジーナが差し出してくれた手を僕はギュッと握って僕達は神殿へと瞬間移動した…
ジーナがバビロナに初めて帰った時は万一の場合の為に僕達が神殿に近づいていることが誰にもバレないように魔法は全く使わなかったけど、今回は歓迎されてるとは言えないが一応招かれている立場なので彼女は直接玉座の間へ向かった。
薄暗い玉座の間が以前と同じように魔法で篝火が焚かれて辺りを照らす…そしてその灯りは美しい女性の姿を映し出した。
「ジーナ…」「姉ちゃん…」
見つめ合った二人の目に涙が溢れてくる…
僕は二人の絆を軽く見ていたのかもしれない。肌と瞳…そして髪の色が違うだけで二人は一卵性双生児としてこの世に生まれて来た。それ故にお互いの事はよく分かっている…
さっきテレパシーで話し合っただけでもうそれぞれの気持ちはお互いによく分かっていた…同時に駆け寄り涙を流しながら二人は抱き合った。僕は二人の気持ちを考えて少し離れた所に身を置いた。
「…姉ちゃん…ゴメン…」
「…ジーナ…あなたの気持ちも考えないで悪かったわ…許してね…」
「ウチこそ…姉ちゃんの気持ち…分かっていながら分かってないフリをしてた…」
「えっ…」ジーニャは戸惑う素振りを見せる…
「人の為に一生懸命で優しくて…面影もあの人に似てる…だから…気持ちを隠す為に…嫌われる為にワザと…」
「………」
その時、静寂を切り裂くように思わず耳を手で塞がないとその場に居られないような甲高い獣の泣き声が聞こえた…
「クワッ!…クワックワックワッ…!」
「な、何だ…?」黙って二人を見守っていた優也だったが突然の事に辺りを見回す…
…ブワッッッ!
暗闇から紫色の煙が現れたと思ったら瞬く間に玉座の間に広がった…
「ジーナ…ジーニャさん…くそっ!どこだ…」「ここや…殿…」「優也さん…」
声のする方へ向かうが真っ暗で何も見えない…いや…違う…だんだん見えなくなって来ている…
手足は徐々に動かなくなってきている…何より息が…呼吸が苦しい…
「なんて事を…ジーナ…彼を連れて逃げて…」「…ね、姉ちゃん…」「早く!逃げるのよ…!」「わ、分かった…」
「よいしょ!殿…しっかり…」
ジーナは僕の腕を自分の首の後ろに回して、肩を貸すような体勢でテレポートした…
優也は目を閉じながら愛する妻の名を呟く…
「…ティナ…」